- 2020.03.30
- インタビュー・対談
小さな案内人が誘う「異世界」へ――作者による“おかしな”解説の試み
吉田 篤弘
『ガリヴァーの帽子』(吉田 篤弘)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
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かねてより画策していること──いつか書いてみたいもの──のひとつに、リリパットの人々の視点だけで捉えたガリヴァーの物語があります。全体の八割ほどはリリパット人の喜怒哀楽を描き、残りの二割ほどは、ガリヴァーの漂着から別れまでを描きます。「ゴジラ」のようなものでしょうか。あの怪獣のように、突如あらわれ、つかの間こちらで過ごしたあと、大きな痕跡を残して消えていく異形のもの。
ところが、あるとき、『ガリヴァー旅行記』の目次を眺めていて、「大人国」「小人国」「ラピュタ」といった架空の島々に並んで、「日本」が混在していることにあらためて驚かされました。
一七〇九年五月二十一日、ガリヴァーは日本のとある港に到着したのです。そのときの記録が日本側に残されていないのは、これこそ不可解な話で、仮に重要な記録を隠蔽するのがそのころからの慣習であったとしても、ありもしなかった記録を捏造するのもまた慣習であったはず。
そうしたことが司法に携わる者たちの場で行われれば眉をしかめるしかありませんが、娯楽の場にいる者たちが、このガリヴァーの来日を詳細に描くことなくやり過ごしてきたのは、この国の楽しい捏造──フィクションに携わる者たちの大いなる見落としではないかと思われます。なにしろ、われわれは余計な空想を働かせなくても、すでにリリパットの側に属する島民なのですから。
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