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万城目学と門井慶喜の「辰野金吾建築散歩」in東京

万城目学と門井慶喜の「辰野金吾建築散歩」in東京

「オール讀物」編集部

ふたりの建築探偵が大建築家の足跡をぶらぶら歩く!

出典 : #オール讀物
ジャンル : #歴史・時代小説

(6)東京駅【辰野金吾/1914年/千代田区丸の内1】

万城目 いよいよ東京駅です。8年前に門井さんと来たときには、まだ復元工事の壁に覆われてて、先っぽのドーム屋根がちらりと覗くだけだったんですが。

門井 いまやすっかりお洒落な観光地になり、駅前広場も広々としていますね。

広大な駅前広場で東京駅トークが弾む

万城目 東京駅の中央線ホームって一番丸の内寄りにあるんです。ここで電車を待っていると、赤レンガ駅舎の真裏が見えるんですよ。かなりの至近距離で屋根の細部、ちいさな飾り塔、小窓の横のウロコ模様まで観察できるので、おすすめのスポットなんです。

ドーム屋根の裏側もじつに壮麗

門井 そうか、ホームの位置がすごく高いから。

万城目 中央線の線路って、エスカレーターで4階分くらい上がっていくから、めちゃくちゃ高いんですよ。さらに駅舎の裏側って、正面側のこぎれいさと違って、ほどよくくすんだ「昭和の東京駅」感がある。あと、駅舎の奥行きのなさをダイレクトに感じることもできます。赤レンガ駅舎は、丸の内口を入って改札までの幅しか奥行きがないので。

門井 それは駅舎内のステーションホテルに入っても感じますね。ホテルの中では、基本的に横移動の動線しかありません。

形のことを言えば、私、8年前の建築散歩の際、東京駅を評して「横に長すぎやしないでしょうか」と批判がましいことを申し上げたんですけれども……。

万城目 きわめて先見の明です。おそらく、ホテルで働いている人、みんなが毎日そう思ってるはず(笑)。

門井 いまもその意見に変わりはないのですが、金吾の小説を書いた身として東京駅を弁護するならば、現在の日本人以上に昔の日本人は地震を恐怖していました。その恐怖は、東京駅開業から9年後の関東大震災で現実のものになるわけですけれども、当時の資料を読んでいると何度も何度も「日本は地震が多い国」との言葉が出てくる。当然、設計上もその恐怖心を和らげる工夫が必要となります。駅舎の横幅を目一杯とること自体がもう「絶対に倒れないよ」という大衆向けの、端的なメッセージだったかもしれない。

赤レンガ駅舎の中央に位置するのが皇室専用の「貴賓出入口」

万城目 たしかに安定感は出ますね。

門井 さらに素材の話をしますと、東京駅は「最後の大規模レンガ建築である」とも言える。東京駅の場合、まず鉄骨を組み、その周りにレンガを置く「鉄骨レンガ造り」という堅固な工法を採っており、おかげで無事に震災を耐え抜くんですが、残念ながら他の多くのレンガの建物が地震で壊れたため、赤レンガ建築は時代遅れになってしまうんです。

金吾の手がけた赤レンガの東京帝大工学部を、震災後、鉄筋コンクリートの専門家である内田祥三が建て直したことが非常に象徴的ですけども、震災を機に急速に鉄筋コンクリートが普及する。その普及前の最後の大物が東京駅なんですね。

じつは東京駅をつくるときすでに、金吾は弟子から「鉄筋コンクリートでいきましょう」と言われてるんですよ。

万城目 ほう、ほう。

門井 当時、日本最初期の鉄筋コンクリート建築(神戸和田岬の東京倉庫)が建設中で、金吾はその現場を神戸まで見学に行っている。でも、生コンって練ってるときすごく柔らかいでしょう。こんなドロドロの素材で強度が保てるのかと不安になって、採用を見送ってしまうんです。すでにアメリカではコンクリートで20階、30階建てのビルを建てているから「絶対大丈夫です」と弟子はおそらく言ったでしょうが、金吾は認めなかったんですね。

万城目 辰野自身は、震災の4年前に亡くなっています。幸か不幸か、赤レンガ建築の倒れるところは見なくてすんだのですね。もし辰野が震災を経験していたら、その後、どんな建物をつくったのか気になりますが……。そしてこの東京駅、2024年には一万円札のデザインにもなる。

渋沢栄一の新1万円札の裏には東京駅の勇姿が(財務省提供)

門井 はい。渋沢栄一の裏が東京駅だそうです。

万城目 来年の大河ドラマは渋沢栄一なので、彼がパトロンとなって猛プッシュした辰野も絶対に登場するでしょう。誰が辰野を演じるか楽しみですね。いっそのこと門井さんがいいんじゃないですか? ひげを生やして眼鏡かけて、「辰野でございます」って(笑)。

門井 アハハハ。でも滑舌悪いから(笑)。

夜景も美しい

【次ページ 国会議事堂:大蔵省臨時議院建築局/1936年/千代田区永田町1-7-1】

単行本
東京、はじまる
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定価:1,980円(税込)発売日:2020年02月24日

文春文庫
ぼくらの近代建築デラックス!
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