刊行としては最新作だが、作中年代としては明治から昭和に入った仙河海を描いた『浜の甚兵衛』に続く第二作が本書となる。仙河海のある漁師の、昭和戦前から戦後にかけての成長物語である。船頭の父に憧れて船に乗り組んだ菊田守一、その人生の軌跡に、昭和の動乱が刻印される。戦時、漁船も船員も軍に徴用されて銃火を浴びて海の藻屑と消え、港町は艦砲射撃にさらされる。戦後の遠洋漁業の全盛を迎えれば、海の国境線を越えて、太平洋を縦横無尽に駆けめぐる。戦乱から高度経済成長へ、豪快に勇壮に激動の日々を乗り越える男のクロニクルであり、冒頭で触れたいまや失われたあのレトロな町並みで繰り広げられる物語である。
前半こそ戦火の物語とあって苦闘と悲劇が続きはするものの、後半は戦後復興から高度経済成長を迎えて、輝かしい明日への予感で物語は終わる。その輝かしさがなにより胸に迫る。物語が終わったあと、この港町になにが起こるのかを私たちは知っている。バブルを経て、底なしの不況が待っている。そして本作で生まれた子どもが五十代を迎えれば「あの日」である。かつての幼な子が地震を津波を火災を生き延びられたかどうか、読み終えてそれが気に懸かる。ちなみに「鮪立」は気仙沼市に現実に存在する土地の名であり、あの津波によって大きな被害を受けた。
思えば著者もまた一九五八年生まれ。本作のラスト近くで生まれた幼な子と同じ世代のひとりである。とすれば、本作は自らの父母の時代を描いたといっていい。著者は同じ宮城県であっても内陸の生まれだが、父や母と同世代の港町の人びとがどのように時代を生きたのかを追って、ラストの輝かしさはもしかすると戦後と呼ばれる時代へのレクイエムなのかもしれない。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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