東日本大震災による津波に、港町の栄華を留めた気仙沼内湾地区が呑み込まれるおよそ一年前のある一日だった。
地域の出版社としては気仙沼だけではなく、沿岸の港々に足繁く取材に通っている。そんな私の気仙沼の記憶をここにご紹介したのは、本書の舞台〈仙河海〉がそのまま気仙沼をモデルとしているからだ。著者は一九九〇年代初頭を気仙沼で中学教師として過ごして、仙台で小説家となった。そして東日本大震災。かつての教え子や同僚・友人・知人たちが地震と津波と火災によって生活を破壊され、日々呻吟苦闘する気仙沼そのものといっていい架空の港町〈仙河海〉を舞台に著者が描き続ける「仙河海サーガ」の、いまのところの最新作が本書である。
サーガはこれまで八作が刊行されている。八作を見渡せば明治・大正・昭和から平成、さらに近未来まで、仙河海を舞台とした海と人と町の物語である。それぞれは時代小説・青春小説・恋愛小説と独立して読めるが、作品の枠を超えて登場人物の血脈が繋がり、ある登場人物がふと別の作品に顔を出したりと、東日本大震災の「あの日」を焦点とした大河小説でもあれば震災文学でもある。
以前、別の機会にもご紹介したが、シリーズを作中年代で並べてみよう。
(1)『浜の甚兵衛』/一八九六年六月一五日 ~一九二九年春
(2)『鮪立(しびたち)の海』/一九三二年六月~一九五八年夏
(3)『リアスの子』/一九九〇年四月~一九九〇年九月
(4)『ティーンズ・エッジ・ロックンロール』/二〇一〇年三月~二〇一一年四月
(5)『微睡みの海』/二〇一〇年四月一九日~二〇一一年三月一〇日
(6)『希望の海 仙河海叙景』/二〇一一年三月一〇日~二〇一二年八月一〇日
(7)『潮の音、空の青、海の詩』/二〇一一年三月一一日~二〇六〇年夏
(8)『揺らぐ街』/二〇一一年三月一一日~二〇一三年一月
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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