私は普段、いろんな人に会い、さまざまな場所に行く。だが、ほとんどの場合、その場以上のつきあいにはならない。そう心がけているせいもあるが、かなりの人見知りだからだ。ともあれ、それを機に、私は夫人と挨拶を交わすようになり、一緒に撮影の様子を見るようになった。
三國さんと初めて言葉を交わしたのは、撮影所の中にある食堂だった。三國さんはお化けのようなメイクをしていた。
とくに人見知りでない人でも、「三國連太郎」との食事は緊張するのではないか。私はひどく無口になった。言えたのは「こんにちは。初めまして」くらいだ。
気を遣ってくれたのか、三國さんが言った。
「この顔はメイクをしていまして、普段はこうではありません」
「それはそうよねえ」
夫人は笑ったが、私は笑えなかった。苦しまぎれに、咳をした。
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