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「津波監視システム」を実現せよ! 変動帯に生きる日本人必読の理系小説

「津波監視システム」を実現せよ! 変動帯に生きる日本人必読の理系小説

文:巽 好幸 (神戸大学海洋底探査センター教授・センター長)

『ブルーネス』(伊与原 新)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『ブルーネス』(伊与原 新)

 DARTは我が国にも導入され、リアルタイム津波情報への活用が期待されているが、欠点もある。まず海上ブイが大型であるために、投錨・設置や保守を行うには装備の充実した比較的大型の船舶が必要なことだ。従って、作品で取り上げられたような海底火山の活動の活発化に即対応して機動的に監視を開始することが難しい。例えば日本と同様に地震大国であるインドネシアでは、2004年のスマトラ島沖地震とインド洋大津波の発生を受けて、DARTによる津波監視体制が整備された。しかしその設置はスマトラ島やジャワ島の海溝側(南~南東側)に限られていた。そんな状況下で、2018年12月22日にスンダ海峡のクラカタウ火山が噴火、山体崩壊が発生し海へ突入した岩石や土砂が大津波を引き起こし400人以上が犠牲となった。しかし遥か離れた海溝沿いに配置されたDARTに津波が検知されたのは、海峡周辺を津波が襲った後だった。

 もう一つの弱点は、津波の検知に海面の上下動に反応する水圧計を用いていることだ。この装置では確かに津波がその地点を通過したことは検知できるが、津波の伝播方向・速度を求めることは困難なのである。

ウミツバメ履歴書

 以上紹介したような現状の津波監視システムの弱点を一挙に解決しようとするのが、武智要介率いるウミツバメプロジェクトだ。このプロジェクトでは、津波の検知は誘導磁場を検出する「海底電位差磁力計」が、リアルタイム観測データを音響通信によって受け取って衛星通信を介して陸上へ伝送する役割を「ウミツバメ」が担う。津波の伝播によって伝導体である海水が移動すると、地球磁場の影響で電流が流れ、そのことで誘導磁場が発生する。これが「海洋ダイナモ」と呼ばれる現象だ。実は地球磁場もダイナモ、つまり地球中心核を作る鉄(伝導体)が対流することで持続的に発生している。

ブルーネス
伊与原新

定価:1,056円(税込)発売日:2020年04月08日

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