繁は前々から武士である河野家が何故、漁師たちの元締めをしているのかと疑問に思っていたらしい。故に河野家を取り巻く事情を語ったのである。
「よく解った」
繁は次に投げる網を手に絡めながら答えた。勘が良いのだろう。繁の倭語は出逢った頃からこの国の者と遜色ないほどだったが、この数か月でさらに上達している。
「でもお前が海に出る必要はないだろう?」
繁は手許を見つめながら続けた。
郎党を食べさせていくに十分な土地が少ない分、こうして海から様々な形で銭を得て補う仕組みを考えたのは六郎であった。とはいえ湊と市のことは庄次郎に、漁師たちの元締めは村上頼泰に任せており、己はそれらを纏めていればよいだけである。自ら漁師の真似事をすることに意味はないのだ。そこに何か特別な意図があるのではないかと繁は勘ぐったらしい。
「ただ好きなだけさ」
六郎は網を手繰り寄せながら頬を緩めた。年貢を検めねばならぬため、秋頃の領主というものは多忙である。海が好きな己としては毎日でも漁に出たいが、務めをなおざりにするわけにもいかず暫く遠のいていた。久しぶりの漁ということもあり、繁がどれほど腕を上げたのか見たいという気持ちもあった。
「変わり者め」
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