郎党を召し抱え続けるのにはさらにもう一つ訳がある。河野家の者たちは、
――必ずやお家の再興を。
と、願って止まないのだ。
今は辺境の一貧乏御家人に甘んじているが、約五十年前には伊予国守護職に準ずる伊予国惣領職を与えられていた。河野家家宰の古泉庄次郎などは、華やかな時代に子供時代を過ごしたためか特にその念が強い。
再び河野家に勢いを取り戻すためには、やはり武功を立てる以外に道は無い。その機会が来た時に郎党がいないのでは話にならず、人を減らす訳にいかぬという事情もあった。
四年前の文永十一年(一二七四年)に元が来襲した時には、庄次郎ら古い郎党をはじめとする皆が、遂に機が巡って来たと勇んだ。しかしこの時の幕府の命は、水軍を率いて九州に向かえというものであった。人の数は何とか維持してきたものの、見合った分だけの船が残っておらず、武功を立てようにも手立てがなかった。
「と、いう訳だ」
六郎はそう言って水面に網を投げ打った。
本日は繁とともに海に出て漁を行っている。普段は漁師たちに託して彼らに教育を任せているのだが、暇が出来たので今日はこうして自ら連れ出したのだ。
こちらもおすすめ
プレゼント
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。