「そうか」
淡い落胆を隠すことができなかった。令那の故郷について色々聞きたいという欲求がある。それは繁も同様で、そのために二人を引き取ったのだ。
「そもそもな……」
繁は波のさざめきを縫うように語り始めた。奴隷商人が引き連れていた奴隷の数は多い時で八十余人、少ない時でも二十人はいた。肌や眼の色も違えば、使う言語も異なる。日中は無駄口を叩くことさえ許されないし、夜に少し話す機会があっても、自然と言葉の通じ合う者どうしが固まる。つまり繁も令那とほとんど会話したことはなかったという。
「ほう」
では何故、令那を引き取ろうとした時に、俺も連れていけと訴えたのか。それを聞くべきかどうか迷った。語らないのもむしろ余計な誤解を招くと思ったのか、繁は舌を強かに打ってぼそりと答えた。
「恩があるからな」
「恩?」
六郎は振り返って鸚鵡返しに訊いた。繁は振り返らずに網を引き寄せている。細身であるが逞しく締まった腕に筋が浮いていた。
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