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『ジョックロック』に笑え

文: 額賀 澪

6月9日発売 文庫『風に恋う』(額賀澪)番外編を公開!

『風に恋う』(額賀 澪)

「今の応援だとどうしても物足りないんだ。昨日の二回戦の相手なんて、吹奏楽部以外にチアリーダーまでいてさ、こっちの応援は見劣りしてた」

 八対〇で勝った。でも、今後強豪校と当たったとき、ピンチに陥ってみんなが諦めそうになったとき、状況を打破できるくらいの力強くて華やかな応援が必要だ。

「今年は甲子園出場も狙えるメンバーが揃ってる。吹奏楽部の力も、貸してほしいんだ」

 よろしくお願いします! と大河が勢いよく頭を下げると、三好先生が咳払いをした。

「お前等、やるか? 野球応援。俺は、お前等がやるって言うならやってもいいと思う」

 先生の言葉に、宮地がすっと壁に掛かっていたカレンダーを見た。切れ長の目が、ちらりと大河の方を向き、すぐに逸らされる。

「立石、埼玉大会の日程は?」

 宮地に言われるがまま、大河は決勝戦までの日程を答えた。

「やめておきましょう」

 あまりにあっさりと、宮地が言う。

「野球部が仮に決勝まで進んだら、応援で六日潰れます。うちの地区大会は決勝戦の翌々日です。練習時間も削りたくないし、本番二日前に野球応援は入れたくない」

 言いながら、宮地は耳の後ろをがりがりと掻いた。今度ははっきりと大河を睨んでくる。

「ていうか、そんなことも調べずに『野球応援をやってくれ』なんて言いに来たわけ?」

「いやあ、昨夜、吹部のみんなが出たドキュメンタリーを見て思いついたから、勢いで」

 ちょっとおどけた調子で、でも素直にそう答える。そのまま、顔の前で両手を合わせた。

「忙しいのは承知の上で、何とか頼めないか? 俺達、今年こそ甲子園に行きたいんだ」

 最後は情に訴えるしかないと思ったのだが、宮地の顔がさらに険しくなる。これは出方を間違えたか、と大河が思ったとき、宮地を制して副部長の徳村が前に出た。

「わかった。よーく、わかった」

 宮地に「まあ落ち着け」というジェスチャーをして、徳村が大河を見る。そして、どうしたものか、という顔でこう繰り出した。

「野球部が甲子園って目標を掲げてるように、俺達は『全日本コンクールに行く』という目標がある。本番まで二週間ちょっとってときに、突然予定になかった野球応援をしろっていうのは、ちょっと無理な話だ」

 大河はカレンダーを見た。吹奏楽コンクールの地区大会の日程が書き込まれている。その一週間前に、野球部は五回戦がある。コンクール本番前の一週間に、五回戦、準々決勝、準決勝、決勝の日程が、綺麗に収まっている。

風に恋う額賀 澪

定価:本体790円+税発売日:2020年06月09日


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