コラム・エッセイ

<エッセイ>歌田年「紙と模型」

歌田 年

別冊文藝春秋 電子版31号

「別冊文藝春秋 電子版31号」(文藝春秋 編)

[お題:X(『紙鑑定士の事件ファイル』)の余白]
 

 どんな紙でも見分けることができる紙鑑定士と、模型のことなら何でもござれの伝説のモデラーがタッグを組んで大量殺人計画の解明に挑むミステリーが、拙著「このミス大賞」受賞作『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』だ。題名からわかるとおり、モチーフは「紙」と「模型」の二つで、内容比率で言えば前者が三割、後者が七割となっている。ところが単行本化に際して改題され、「紙」が前面に出る恰好となった。これは、紙業界というものが目新しく、「紙鑑定士」という職業(作者の造語だが)がキャッチーだから、きっと注目されるだろうという、版元のマーケティング戦略によるところが大きい。もちろん作者から見てもこの決定は正しかったと確信している。

 しかし読者の反応の中で、題名から「紙」メインのミステリーを期待していたのに実際はそれほどではなく、模型の話ばかりではないかという不満の声が目についた。そういう方には只々頭を下げるしかないが、ついでに模型の世界も知ってもらえたのではないか。作者としては「しめしめ」だ。

 私が子供の頃、即ち一九七〇年代のインドアな遊びの王者はプラモデルだった。男の子なら誰もが作っていた。だが、当人のスキル次第で仕上がりに差が出るものだ。私は凝り性だったので、普通に組み立てるのではなく、色を塗ったり改造したりもした。長じると市販のプラモデルでは飽き足らなくなり、まだ製品化されていないロボットやメカを、プラスチックの板から切り出して完全自作するまでになっていた。ちょっと凝り性が過ぎる。

 大学を卒業するとある中堅出版社に入り、うまいことに模型専門誌の編集部に配属された。そもそもの模型好きゆえ、四六時中そのことを考えていられるのは天国以外の何物でもなかった。たまに自分の作った模型をこっそり偽名で載せたりして。完全に職権乱用である。そんなわけでアッという間に一二年が過ぎ、転職先でも同様の模型誌を一三年間編集した。その間ひたすら、模型を作る愉しさ面白さを世に広めることを第一義に働いてきた。しかし、結局は元々興味のある人にしか刺さっていないことに気が付いた。広がりには限界があった。無力感を覚えたこともあった。いつしか、模型業界を飛び出さなければと思うようになっていた。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版31号(2020年5月号)文藝春秋・編

発売日:2020年04月20日


 こちらもおすすめ
インタビューほか<新庄耕インタビュー>詐欺のプロ・地面師から感じた意外な“人間臭さ”(2020.05.11)
インタビューほか澤村伊智「このエッセイもまた小説の趣向の一部なのだ」(2020.04.20)
インタビューほか<砥上裕將インタビュー>一つのことに集中して生きる幸せが世の中にはあると思うんです(2020.03.27)