ビアズリーもワイルドも、不運なことに二十世紀の幕開けを見ることはできなかった(前者は一八九八年、二十五歳で、後者は一九〇〇年、四十六歳で死去)。せめてあと七、八年長生きできていたら、同時代のもう一人の天才リヒャルト・シュトラウスのドイツ語版傑作オペラ『サロメ』を観ることができたであろうに。そして原田さんのこの小説でも、何らかの形でシュトラウスが彼らと直接絡んだかもしれないのにと、(オペラファンとしては)それだけが残念だ。
とはいえ、エドワード・バーン=ジョーンズ、サラ・ベルナール、アルフレッド・ダグラス卿(ワイルドの同性の恋人)など、有名人も登場して色を添えている。史実とノンフィクションの絶妙な組み合わせ、そのあわいに自由にはばたく想像の翼が原田作品の大きな魅力であることは、誰も異存はあるまい。
本作でも、実際のメイベルはこうだったのではないか、と信じさせてしまう力技にうならされる。男を狂わせ破滅させるファムファタールは、男の固定観念にある妖艶な美女ばかりとは限らず、献身的な姉の外見をまといながら、いつしかサロメになってゆく、というアリジゴクのような怖さがある。
最近の原田さんはますます領域を広げ、日本絵画とカラヴァッジョを組み合わせた力作『風神雷神』なども発表されている。これからも私たちを大いに楽しませてくれるだろう。新作が待ち遠しい。
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