やはり運のない男だ。せっかくの受賞が無駄に終わってしまった。そう思ったとき、捨てる神あれば拾う神あり、某テレビ局のモーニングショーで紹介するから顔写真を送れというメールが届いた。モーニングショーの中でも視聴率は一番低いが、多くの人の目に入る。だがわたしのことだ。どうせ大きい臨時ニュースが入って取り上げる時間がなくなるに決まっている。
そう思いながらも、少しでも印象をよくしようと、あらゆる角度から顔写真を撮ったが、三十分かけても不本意な写真しか撮れない。しばらくして、常日頃、本を顔で売るのを拒否する姿勢を貫いていることを思い出し、妥協の一枚を送った。放送されることは、弟と、数人の老人ホーム仲間に宣伝した。
放送当日、臨時ニュースは入らなかったが、番組は新型コロナ関連の話題に終始し、目を皿のようにして見てもチラともわたしの本も写真も映らないまま番組は終了した。こんなことなら臨時ニュースが入ってほしかった。
わたしが宣伝したためにわざわざ番組を見た人には平謝りした。弟からは慰めの電話がかかってきた。弟が購読している地方紙には、本屋大賞のニュースが報じられたという。本屋大賞には、「本屋大賞」「翻訳小説部門」「発掘部門」があるが、その新聞には、本屋大賞と翻訳部門が紹介されただけで、発掘部門への言及はなかったという。「受賞しただけでもよかった」と慰めてくれた。
だが、どちらが不運だろうか。(1)最初から恵まれない男と、(2)幸運の女神が一瞬微笑みかけ、一転、険しい顔を向ける男と。(1)と(2)の両方の意味で、わたしはよくよく運のない男だ。
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