会う人、会う人が「もうすぐだね」と言うのはそのことだ。
正確には2020年6月15日、午前0時00分。
その瞬間まで法を犯さなければ、執行猶予は満了を迎えて、清原に下された判決の効力は消滅する。
それなのに今の清原は、その日が来なければいいと願っている。
巨体を小さく縮めて、怖れている。
「執行猶予が明けたらいきなり聖人君子にならないといけないプレッシャーのような、そういうものです。司法の上では刑が明けるのかもしれませんが、いきなりぼくの中で何かが変わるわけではないですから……」。声のトーンが落ちていく。「相変わらず眠れないし、悪夢を見るし、アルコールに逃げているし……。本来ぼくの中に流れている血は、やっぱり本質の部分は変わらないと思うんで……」
清原は視線を落としたままだった。
「じゃあ執行猶予が明けた後に何があるんだって考えたときに、自分自身の生活は今までと変わらないんですよ。そこにすごいプレッシャーを感じるんです」
出口をめざして暗いトンネルを這(は)いすすんできた男が、いざ光を前にしてそれを怖れている。
「執行猶予が明けたら清原はいよいよ動き出すんじゃないかって、世間は思っているかもしれませんけど、ぼく、そんな計画は何一つ立ててないですし。今もそうですけど、まず心と体のコンディションを整えるのに必死なんです。もう本当に……4年かかったんですけど、やっとちょっとずつこう、波がありながら、浮き沈みがありながら、なんとなく上向いていますけど、そこで執行猶予が明けたと言われてもこの波はパーンと上がらないですから。そういうことを期待されている? そういう感覚が怖いんです。だから……」
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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