4月23日に発売になった、村上春樹さんが初めて自らのルーツを綴ったノンフィクション『猫を棄てる 父親について語るとき』。
「文藝春秋digital」で開催中の「#猫を棄てる感想文」のハッシュタグをつけていただいた投稿のなかから注目の感想文を、ご紹介しています。
第七回は、介護されていたお父上のふしぎな言葉が、今回の作品に共鳴したという「樺島ざくろ」さんの感想文です。
西宮市の夙川近くに3年ほど住んでいたことがあります。
春には桜が水面に映える、美しい川です。
村上さんが自転車の後ろに乗って、お父さんと海まで猫を捨てに行ったという川沿いの道を、私も子どもを乗せて何度も自転車で通りました。
そうか、あの風の気持ちいい素敵な道を、村上少年は猫を抱えて海に向かったのか。
思い出というのは、不思議ですね。
日常のありふれた光景のうち、どれが生涯の思い出となるかなんて、誰にもわからないし選ぶこともできません。出来事の重要度や好き嫌いを超えた、なにか、特別な法則が、記憶に焼き付けるのでしょうか。
「猫を棄てる」という日常の出来事が不思議な法則に選ばれ、生涯の思い出に残ったという偶然。それは、お父さんが戦争から生き延び、不思議な縁でお母さんと出会ったのと、もしかしたら同じ法則によるものかもしれませんね。
「ささやかなものごとの限りない集積」がパズルのように人を作り、「無数の仮説」の中から「たったひとつの冷厳な現実」がもたらされる。そしてそれが「次の世代へと否応なく持ち運ばれていく」。
人は、人生は、歴史は、そうした人知を超えた不思議なシステムによって成り立っているのでしょうか。
私の話をさせてください。
私も、数年前に父を亡くしました。
在宅で4年ほど介護をしていましたが、私は良い介護者であったのか。
いつも気持ちよく接することばかりではありませんでした。
疲れたり面倒に思ったりすることも多々ありました。
3人の子の世話で手いっぱいになり、父に邪険に接してしまう日もありました。
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『烏の緑羽』阿部智里・著
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