- 2020.07.08
- 書評
瀬戸内海の美しい景色の中で展開する、体力の限界に挑むレースと誘拐事件
文:林田 順子 (編集者・ライター)
『ランニング・ワイルド』(堂場 瞬一)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
これが本書のような、チーム戦のアドベンチャーレースともなれば、レースプランは尚更重要となる。アドベンチャーレースでは、舗装されていない場所や海、川などを進むことも多く、細かくコースが定められていることはない。チェックポイントが描かれた地図(世界のレースの中にはロールプレイングゲームのマップのような驚くほど簡略なものもある)を精査し、メンバーそれぞれのスキルや体力を考慮しながら、最適なルートを導き出す。
この戦略通りに冷静にレースを進められた者たちが「ありふれた奇跡」を手にすることができるのだ。
別の芸能人ランナーは「速く走りたい気持ちをいかに抑えるかが重要なんです。実際、序盤で自分を抜いた選手が30kmを過ぎるとあちこちで倒れていて。逆に80歳ぐらいのおじいちゃんで、すごくゆっくりに見えるのに、最後まで抜けないこともレースではよくあります」とマラソンの攻略法を語ってくれた。
そう、長距離競技に求められるのは、若さでも体力でも勢いでもない。経験と戦略、そして自制心なのだ。
では本書の主人公で、チームPのキャプテンを務める和倉賢治はどうだったか。家族を人質にとられ、気が急く自分の判断力に迷いをもちながら、それでも強引にチームを導いていく。唯一の女性メンバーである安奈は速すぎるペースに不安を抱き、他のメンバーもレースが進むにつれ、いつもと違う疲労を感じていく。ハードなコースを選ぶキャプテンへの不審とレースへの不安は、大会に出たことがある人なら、まるで自分の体力と精神力を削られているような感覚に陥るはずだ。完走できるのか、どこまで限界値に近づけるのか。それを見届けるために、こちらまで時間に追われるようにページを進めていく。
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