書評

瀬戸内海の美しい景色の中で展開する、体力の限界に挑むレースと誘拐事件

文: 林田 順子 (編集者・ライター)

『ランニング・ワイルド』(堂場 瞬一)

『ランニング・ワイルド』(堂場 瞬一)

 もう何年も前のことになるが、スポーツ雑誌の取材で、ある芸能人ランナーの方が言った言葉をいまだに覚えている。

「フルマラソンを完走するというのは、ありふれた奇跡なんですよ」。

 何年経っても初心者ランナーのような私でも、この言葉には深く納得した。42.195kmを走りきる。それは走ったことがない人にとっては、とてつもないことのように思えるけれど、一度でもレースを走ってみれば、決して限られた人だけのものではないことがわかる。

 絶対に完走をする──。マラソンだけでなく、トライアスロン、山道を走るトレイルランや、本書のようななんでもありのアドベンチャーレースまで、長距離のタイムを競うレースにおいては、その気持ちと戦略が、体力よりも大事になることが多々ある。

 トップアスリートから市民愛好家まで、走りのレベルは違っていても、スタートラインに立ったときの気持ちに、大きな差異はないものだ。「今日は何が起こるんだろう」という期待や高揚感、そして「無事にゴールまで辿り着けるのだろうか」というかすかな不安。スタート地点に並ぶ全員がこんな気持ちを抱えていると言っても過言ではないだろう。

ランニング・ワイルド堂場瞬一

定価:本体750円+税発売日:2020年07月08日


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