『ランニング・ワイルド』(堂場 瞬一)

 ここからは余談だが、物語のレースは、チーム最年長メンバーの重盛の引退レースでもあった。優勝で華々しく送り出したい。そんなメンバーの思いをよそに、物語は終焉へと向かっていく。けれども、ランナーならきっと思うはずだ。重盛はまたレースに戻ってくるはずだと。

 大会に出ると、レースを完走した喜びも束の間、すぐに頭に浮かぶのは、その日のレース展開だ。あそこで休憩したのは正解だったか、入りのペースは遅すぎたのではないか……ボロボロの体を引きずりながら、今もう一度スタートラインに立つことができたら、もっとうまく走れるのにと、つい思ってしまう。それがランナーの性なのだ。

 だから、これだけの選手がこんなレースで引退するなんて、考えられない。何にも邪魔されずに純粋にレースを楽しんで、自分の競技人生を終える。それこそが、レースを愛する多くの人の夢なのだ。いつかそんな物語をもうひとつ生み出してくれるのではと、つい期待をしてしまうのも仕方ないだろう。