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ジョン・フォード論 第一章-III-2 雨と鏡

ジョン・フォード論 第一章-III-2 雨と鏡

文:蓮實 重彦

文學界8月号

出典 : #文學界

「文學界 8月号」(文藝春秋 編)

 実際、『ドノバン珊瑚礁』でも、雨の日の深夜近くに一人の少年――それが父親の息子であり、自分と血縁の弟でもあることを彼女はまだ知らずにいる――をエリザベス・アーレンのもとに連れてくるジョン・ウエインは、薄クリーム色のおそらくはナイロン製であろう半透明のレインコートをまとって微笑んでおり、もちろん傘など持ってはいない。そのとき、わたくしたちは、たちどころに『モガンボ』(Mogambo, 1953)のエヴァ・ガードナー Ava Gardner の薄緑色のこれまた半透明のレインコートと、同じ色合いの雨よけのシックな帽子とを思いださずにはいられない。

 あまりにも過小評価されていたとしか思えぬこの優れた大女優が、夜の熱帯雨林の鬱蒼と生い茂る木々の枝をさけるように、傘もささぬままのいでたちで降りしきる雨をものともせずに闊歩する姿は、フォードにおけるもっとも美しい移動撮影の一つだと断言したくなるほどにみごとなものであり、怖ろしいまでに魅力的なのだ。そして、彼女が直射日光を避けるべく開いてみせる黄色の日傘の素晴らしさもまた、忘れがたい光景だといっておく。

 

この続きは、「文學界」8月号に全文掲載されています。

文學界 8月号

2020年8月号 / 7月7日発売
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