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村上春樹『猫を棄てる』みんなの感想文(11)私は父に“おはよう”すら言えない

村上春樹『猫を棄てる』みんなの感想文(11)私は父に“おはよう”すら言えない

文:SAKO ASAMI

村上春樹『猫を棄てる』感想文コンテスト

4月23日に発売になった、村上春樹さんが初めて自らのルーツを綴ったノンフィクション『猫を棄てる 父親について語るとき』。
「文藝春秋digital」のマガジンに収録させていただいた「#猫を棄てる感想文」のハッシュタグのある投稿のなかから注目の感想文を、ご紹介しています。
第十一回は、この本が、「親子だからって仲良くないといけないのか?」という答えの出ない問いを深めるきっかけとなったという「SAKO ASAMI」さんの感想文です。


とても静かな作品でした。とくべつにわくわくするわけでもなく、涙がこぼれるわけでもなく。ご本人が意図した通り、メッセージとしてではなく、ただ単に「ああ、村上春樹も人間の子どもで、戦争の被害者であるお父様を持っていたんだなあ」と、大ファンである村上春樹氏の当たり前(だけどこれまでは忘れていたよう)な事実を再確認し、受け取りました。

わたしは猫を飼ったこともなく、当然棄てたこともなく、棄てた猫が戻ってくるという経験もありません。この、アルバムの表題曲ともいえそうな素敵なエピソードに、ささやかな温かみと幸福を感じました。わたしは元アトピー持ちで、アレルギー体質なので、毛のある動物が飼えません。猫のことは大好きなのに。だから余計に、猫に囲まれて暮らす日常はどんななのだろうと、村上作品を読むたびに思うのです。

さて、わたしも親、とりわけ父親とは、おそらく20年近くはまともに目を合わせて話していません。……すこし大袈裟になりましたが、高校受験の勉強(主に数学を。父は理系でわりと頭が良いです)を手伝ってもらったり、マイカーを購入したときに一度練習に付き合ってもらったり、自動車保険について相談したり、婚約の話がでたときに諸々の準備について話したり(結局、いろんな事情でこの婚約はなくなってしまった)、そんなことは節々でありました。

さらに小さい頃、むしろ私は生粋のお父さんっ子でした。旅行に連れて行ってくれたり、工作が上手でいろいろなものを作ってくれたり、抜けてはいるが優しい性格のお父さんが好きでした。お母さんの方が何故か懐けなかったくらいです。

でも、小学4年生の頃、はっきりと父を軽蔑し始めました。それはお母さんに対する言葉や態度が、愛の欠けたものだと気づいてしまったからです。決定的な事件があったけれど、それはまだこういった場には書けそうにありません。けれど、初めて血の気が引く、というのを体験し、お父さんは怖い生き物だと思ったのです。

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単行本
猫を棄てる
父親について語るとき
村上春樹

定価:1,320円(税込)発売日:2020年04月23日

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