4月23日に発売になった、村上春樹さんが初めて自らのルーツを綴ったノンフィクション『猫を棄てる 父親について語るとき』。
「文藝春秋digital」で開催中の「#猫を棄てる感想文」のハッシュタグをつけていただいた投稿のなかから注目の感想文を、ご紹介しています。
第九回は、この本と出会ったことで、父親との向き合い方に変化が生まれたという「ホノルルマラソン」さんの感想文です。
重すぎるテーマ
『猫を棄てる』を初めて書店で見かけたとき、その表題から、「あぁ、春樹さんはついに父親と向き合ったんだな」と思った。
いつもなら、春樹さんの新刊は、中身を確認することなく、目にすると必ず購入する。しかし今回は、購入するまで時間がかかった。
書店で見かける度に手に取り、中身をパラパラと読み、また棚に戻す。その作業を10回は繰り返しただろうか。結局、1カ月経ってから、ようやく購入した。
こんなに時間がかかった原因は、『猫を棄てる』という作品ではなく、私の中にある迷いだ。
9年前に父親を亡くしてから、春樹さんと同じように、私自身もずっと、いつか父親と向き合わなければならないと思ってきた。父親というのは、私にとって重いテーマだ。大好きな春樹さんとはいえ、このテーマについて書かれた本を読むのはためらわれた。
しかし、書店で『猫を棄てる』のページを何度もめくるうち、その「いつか」は、もしかしたら、「今」なのかもしれないと、思うようになった。『猫を棄てる』を読むことが、そのきっかけになるかもしれない。
春樹さんの本は、20年近く愛読している。作品自体はもちろん好きだが、いつかどこかで、「春樹さんと父親との間には溝のようなものがあるらしい」ということを耳にして、一方的な親近感を持った。そのことが、皮肉にも、春樹さんの作品をより好きにさせた。
物心がついた頃から、私は、父親に対して葛藤を抱えてきた。細かい内容は違っても、同じような感情を抱えているであろう春樹さんの書いた作品なら、自分の中にスッと入ってくるような感覚があった。自分と同じ感情を知っている人の紡いだ言葉なら、なぜか安心できたのだ。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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