――お咲は現代で言うヘルパーさん、介護士の役回りです。『銀の猫』では「介抱人」と書かれていますが、「介抱人」は実際に存在したのでしょうか?
「介抱人」という職業自体は、フィクションです。
ですが、いわゆる口入れ屋さん、人材派遣のような商いはありました。
大きな家は使用人がたくさんいて、その人たちは、主が自分の親を介護する手伝いをしていました。
そして主は、ヘルプをしてくれた下男たちのことも、生涯看取るまで面倒を見るんです。
江戸時代には、家族だけではなく、色んな人間が関わって介護をしていた、ということがあったので、「介抱人」という職業の名前はないけれど、こういう役割、機能を果たした人はきっといただろうと思って。
介抱人、始めてみました。
――8つの短編が収録されていますが、それぞれクセの強い老人が登場しますよね。
お咲は、そんな老人たちの介護をしながら成長していきます。
介護って一軒ずつ、事情が違います。本人も違うし、介護する側も違うし、一軒ずつのドラマがある。毎日状況も変わるわけですよね。
これは一軒ずつの物語をやってみようかなと。
――お咲は、「誰もが楽になれる介抱指南書」の作成に協力することになります。
「介抱指南書」は実際に存在したのでしょうか。
これも私の創作です。「養生訓」など、有名な指南書は、江戸時代の人々の生活のなかにあったわけですが、それだけでは足りない部分をなんとかしたい、とお咲が考えるのです。
この指南書を書くときって、要するに私が作らなければならないので、かなり唸りました。読んでくださった方がどこかで腑に落ちてくださらないといけないので。
大変なものを作ることになったなと思ったんですけど(笑)。
――朝井さんは実際に介護をされたご経験があると伺いました。そのご経験が役に立つ部分はありましたか。
一生懸命介護した人ほど、「自分は自分の子どもにこういう思いをさせたくない」と思うことが多いんです。でもそこまで思い詰められるのは、いかがなものなんだろう、と。
そこまで追い詰められない、なにか心の持ちようがあるのではないか。
江戸時代の人々は、現代の私たちよりも、弱っていくことへの解釈や、老いと死の受け入れ方が幅広かったと思う。死は闘うものではなかったんです。というのは、ふとした病で子どもが簡単に死ぬ、ということが日常にあるので、生と死の間(あわい)が幅広かったと思うんです。あんまり死と闘おうとすると追い詰められるので。
そういったことも含めて、なにかを登場人物たちに掴ませたいなと思って、「介抱指南書」に挑んでみることにしました。
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