今は人生百年時代と言われている。日本人の平均寿命は男性でおよそ八十一歳、女性は八十七歳なのだそうだ。まことにめでたいようで、その実、自立して生活できる健康寿命は、男性でおよそ七十二歳、女性で七十五歳。つまり、平均して十年前後はだれかの世話を受けなければ暮らしは立ち行かないというわけだ。
では、この物語の舞台となった“お江戸”ではどうだったのか。本書には次のように書かれている。「江戸の町は、長寿の町だ」と。「五十過ぎまで生き延びればたいていは長生きで、七十、八十の年寄りはざら、百歳を過ぎた者もいる」。
日本全体がそうだったわけではないようだが、江戸の町の寿命事情は今とそう変わらない。この江戸で、主人公のお咲は、「身内に代わって、年寄りの介抱を助ける奉公人」=「介抱人」として働いている。介護は現代の私たちにとっても、もっとも身近な問題の一つだ。ぐっと親近感と興味が湧いてくる。
「介抱人」の仕事を、派遣会社のように仲介しているのは口入屋だ。口入屋というのは仕事の斡旋を行う稼業だが、用心棒から女中奉公、妾奉公に、参勤交代の臨時の中間にいたるまで、あらゆる仕事への橋渡しをする。朝井まかて氏は、そこに「介抱人」をつけ加えて独自の世界観を構築した。誰も描いたことのない、介護を扱った江戸もの小説の幕が開いたのだ。
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