- 2020.09.04
- インタビュー・対談
オンラインゲームは窮屈な現実からの「避難場所」――『二百十番館にようこそ』(加納 朋子)
「オール讀物」編集部
Book Talk/最新作を語る
出典 : #オール讀物
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
“人生の夏休み”は必要だ
離島のシェアハウスに男子四人が集い共同生活をする――。
加納朋子さんの最新刊『二百十番館にようこそ』は、今の時期にぴったりの“人生の夏休み”小説……なのだが、その設定はとてもユニークだ。まず、シェアハウス〈二百十番館〉の住人は全員、社会からドロップアウトしたニート。彼らは〈ES〉というオンラインゲームをこよなく愛しており、ゲーム内での生活や立場を大切にしている。自然豊かな小さな離島を舞台に、現実の生活、ゲームの展開、それぞれの背負う過去がシンクロしながら、男子四人の笑いあり涙ありのドタバタな日々が軽快な筆致で描かれていく。
「最初は短編小説のつもりだったのですが、頭のなかで世界観がどんどん広がって……。いつの間にか長編小説になりました。こんな経験は四半世紀以上物書きをやってきて初めてでしたが(笑)、楽しんで書くことができました」
そんなワケアリ住人に声をかけたのは、主人公の〈俺〉。就活に失敗して以来、ゲーム三昧の引きこもり生活を続けていたが、痺れを切らした両親に家を追い出され、伯父の遺産である離島の館に追いやられてしまったのだ。奇しくも〈俺〉は不動産持ちになったのだが、親からの生活の支援は一切なし。そこで〈俺〉は館をシェアハウスにすることで稼ぎを得ようと思い立ち、住人の募集を始めたわけだ。
「今はとても窮屈な時代だと思います。普通に、人並みに、上手くやっていくことがとても難しい。世界の有り様があまりにも暗いし、先も見えません。そんな世の中だからこそ、癒やしになる、ニヤリとできるような物語にしたいと考えました。私自身、これまで小説に限らず“物語”に救われてきました。この作品では、ゲームという“物語”に救われている人々の姿を描いています。生きづらさを感じる人々に向けた、私なりのエールです」
事情を抱えた四人を支えてくれるのは、島の住人であるお年寄りたちだ。人生経験豊かな彼らの温かい言葉や行動が、社会に疲れてしまった男たちの心を解きほぐしていく。
「“家族”は一番小さな社会ですが、そこからはじかれてしまう人もいる。現実はままならないこと、辛いことの連続です。物語やゲームの世界は避難場所として優秀ですし、もしかしたら主人公が島に辿り着いたように、リアルの世界にも居場所が見つかるかもしれません」
ときに衝突しながらも、前へ進もうとする男たち。読み進めていくにつれ、読者は不器用だがけなげに生きようとする彼らを応援したくなるはずだ。
かのうともこ 一九六六年、福岡県生まれ。九二年『ななつのこ』で鮎川哲也賞を受賞。九五年『ガラスの麒麟』表題作で日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)を受賞。