全国のミステリーファンのみなさま、こんにちは!
先々月よりスタートした「文春ミステリーチャンネル」は、文藝春秋が毎月刊行している書籍、雑誌のなかから「ミステリー(推理小説)」に特化した新作情報を発信していきます。文春はあまりミステリーのイメージがない出版社かもしれませんが、実はけっこうコアな謎解き作品も出してるんですよ。
第3回となる今回は、2020年8月分を一挙ご紹介します。毎月下旬に月イチ更新しますので、どうか読み逃しがありませんように、チェックリストとして活用してください!
【単行本】
□赤川次郎『幽霊終着駅』
□吉永南央『初夏の訪問者』
□坂上泉『インビジブル』
□加納朋子『二百十番館にようこそ』
デビュー以来44年の長きにわたって読者を虜にしている赤川次郎さんの「幽霊シリーズ」。28作目となる『幽霊終着駅』では、郊外の駅にぽつんと置き去られた首だけの死体が発見されます。捜査一課の宇野警部と女子大生の恋人・夕子のコンビは、ひとつの生首から、ある親子の悲しい真実に辿り着くのですが……。
吉永南央さんの「紅雲町珈琲屋こよみ」もまた、オール讀物推理小説新人賞受賞以来、ずっと書き続けられている人気シリーズです。北関東の町でコーヒー豆と和食器の店を営む「お草さん」が探偵役を務めるのですが、8作目となる『初夏の訪問者』は、ある日、謎の男がお草さんの店にやってきて、自分は息子の良一だと名乗るという衝撃の幕開けとなります。なぜ衝撃なのか。お草さんのひとり息子は3歳の時、水の事故で亡くなっていたからです。
『へぼ侍』で昨年の松本清張賞を受賞した坂上泉さん。期待の2作目『インビジブル』は、昭和29年の大阪を舞台にした本格警察小説! 政治家周辺の関係者が次々と犠牲になる連続猟奇殺人に、中卒叩き上げ若手刑事と帝大卒警察官僚のバディが挑みます。猥雑きわまる戦後の大阪を這うように捜査する刑事たちの描写は、まさに黒澤映画の雰囲気。刑事と犯人が激突するクライマックスは圧巻です!
「日常の謎」の名手、加納朋子さん『二百十番館にようこそ』の主人公は、就活に挫折し、実家に引きこもってオンラインゲーム三昧の日々を送る「俺」。伯父から相続した離島の館をのんきに見物に行ったつもりが、親から「もう面倒見きれない。そこで一人で生きていけ」との最後通牒。館には続々ニートが集結し、皆でゲームに興じる驚きの展開に! ほのぼのした描写に笑いつつ、最後に意外なサプライズが待ち受けます。「人生の夏休み」はどんな人にも必要なのではないか、と、しみじみ感じさせてくれる1冊です。
【文春文庫】
□明日乃『お局美智 経理女子の特命調査』
□内田康夫『贄門島』(上・下)
□西村京太郎『寝台特急「ゆうづる」の女』
今月、強烈におすすめしたい1冊が、謎の新人作家・明日乃さんの『お局美智』。主人公は地方の建設会社の経理課に勤めるごく普通のベテランOL。しかし彼女には、先代社長から極秘裏に与えられた特命任務が――。それは社内に張り巡らされた盗聴システムを使い、社員を監視してトラブルを未然に解決すること! パワハラ、セクハラ、不倫に横領……どこの会社にも起こりうる(?)難題を「お局美智」は解決できるのか? 勤め人なら誰しも「役員室の音声を盗聴できたら」「ロッカー室の噂話を聞けたら」などと想像したことがあるのではないでしょうか。会社の平穏を守るため、秘密の音声ファイルを武器に戦い続けるお局美智! 時に社長さえもコテンパンにやりこめる爽快さがこたえられません!
故内田康夫さんの「浅見光彦シリーズ」の中でも、屈指の名編と名高いのが『贄門島』です。父が耳にしたという不可思議な会話「こんなにつづけて何人も送ることはない」「そうだな、来年に回すか」の謎を解くため房総の島を訪れた浅見の前で、知人の水死体が相次いで発見されます。「贄送り」の儀式、古文書、北朝鮮とのかかわり……と、島に秘められた謎の壮大さに圧倒される傑作。カバーを一新した新装版で、ぜひお楽しみください。
「上野発の夜行列車」のシンボルだった寝台特急「ゆうづる」。この寝台車に乗ろうとしていた青年社長の新井が、上野駅で見知らぬ美女に誘われ個室寝台を同室するところからミステリーの幕が開きます。甘い夜を期待した新井が目覚めると寝台には女の死体が……。しかもそれは新井を誘った美女ではなく、彼が別れ話で揉めている最中のホステスの死体だったのです。十津川警部シリーズの傑作『寝台特急「ゆうづる」の女』、新装版で登場です。
【オール讀物】
□畠中恵「えんむすび」
「オール讀物」9・10月合併号からは、畠中恵さんの人気シリーズ「まんまこと」の最新作を。町名主の跡取り息子・麻之助のもとに三つ同時に縁談がもちこまれる、という魅力的な「謎」が読者の心を掴みます。しかも、お相手候補のひとりは江戸でも評判の絶世の美女。こんな縁談が自分にくるはずがない、「調べなきゃ」と、麻之助みずから調査に乗り出すというのですから、もう誌面から目が離せません。
【別冊文藝春秋】
□長浦京「アキレウスの背中」
電子文藝誌「別冊文藝春秋」では、9月号(No.33)から長浦京さんの新連載「アキレウスの背中」がスタートします。いま、マラソン界でシューズ革命が起きていることはみなさんご存じのことと思います。その渦中にあるトップランナーに届いた脅迫状。犯人の狙いは何か? 他方、捜査にあたる警察の側も、SNS、情報技術の進化のなかで大きな変化を迎えつつあります。スポーツ界と警察組織、双方の葛藤に迫る骨太のミステリー長編。面白そう、と思われたら、ぜひ連載時からチェックを!
以上9作、駆け足でご紹介しました。
ミステリーは私たちの大切な友人です。毎月、ミステリーの「いま」を感じられる作品をどんどんご紹介していきます! 乞うご期待!
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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