- 2020.09.30
- インタビュー・対談
驚きの展開と謎を秘めた短篇集、『一人称単数』の魅力
聞き手:「文藝春秋digital」村井 弦 ,聞き手:「オール讀物」川村 由莉子
村上春樹さんの担当編集者 大川繁樹が語る
村井 今回の『一人称単数』は、六年前の『女のいない男たち』とはまた味わいが違った短篇集ですよね。
大川 そうかもしれないですよね。川村さんと村井君は、この『一人称単数』を読んでいかがでしたか。
川村 私は、最初の「石のまくらに」がすごく魅力的だなと思っています。語り手の男性がある女性にまつわる記憶を辿っていくんですけれど、その女性に関して、フルネームも覚えていないんですよね。名前は憶えていないのに、彼女と過ごしたとても魅力的で輝いていた瞬間を覚えていると。その女性の記憶を辿っていく物語なんですが、その女性が短歌を作っていた。印刷した紙をたこ糸で閉じたシンプルな歌集を作っていた。そこにおさめられていた短歌がこの作品のなかに登場していて、そのどれもがすばらしい。小説としても楽しめるし、短歌も楽しめる。本当に短歌と小説か出会っているというか、本当に素晴らしい読書体験をさせてもらったなあと思っています。
村井 もう一作川村さんが気になった作品をご紹介ください。
川村 「謝肉祭(Carnaval)」という作品も、わたしは大好きなんですが、この作品の冒頭が……。
大川 衝撃的ですよね。
村井 そうですよね
川村 「彼女は、これまで僕が知り合った中でもっとも醜い女性だった――というのは公正な表現ではないだろう」という文章から始まるんです。村上春樹さんっていつも美しい女性を描かれるっていうイメージが私のなかにあって、容貌が醜い女性ってことを全面に書かれること自体が、すごく衝撃的でした。しかもこの語り手が醜い女性に音楽を媒介にしてすごく惹かれていく。物語の展開もぐいぐいぐいぐい引き込んでいく……。
大川 それが最後に予想もしなかった展開が待っていますから、驚かされますよね。
川村 素晴らしいですね。村井さんはいかがですか。
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