――会田さんに憧れてアーティストを目指している若者もいると思います。
今は、真面目に就職試験を受けて企業に就職したって、将来は決して安泰ではない時代ですよね。もともと美術、ましてや現代美術なんていうのは、ギャンブルみたいな、食えない確率がとても高い人生の選択ですけど、先の見えない今のような時代だからこそ、挑戦してみてもいいと思います。まあ、保証はしませんが……。
それから、僕のこの小説のメッセージの1つでもあるのですが、美大なんて行かなくたってアーティストになれるんですよ。この小説は、決して「美術大学においでよ」という趣旨ではないです。
――小説のなかで印象的なシーンが、芸大受験の2次試験の場面です。
「自由に、絵を、描きなさい」という試験問題に主人公が動揺する姿が描かれています。
僕は美術家になってから、“自由”というものの良さ、恩恵、大切さを感じる一方で、もう半分はつらさ、“自由”なんて嫌だとか、どうしてこんな時代に生まれてしまったんだろう、という恨みみたいなものもあります。ですから僕の美術作品は、大きな制約がなく自由に作れるこの時代にも関わらず、あえて古い日本の絵のスタイルを使ってみたり、自由をあえて拘束するような方法を試しているんです。毎回毎回あがくように色々と試してるわけですが、“自由”というキーワードは自分の頭のなかにいつもあって、僕にとっての大切なテーマなのだと思います。
――ご執筆の最中は、美術の作品に割くお時間は減らされましたか?
いえ、この小説のために美術の何かを減らした、ということはないです。小説は、締め切りを設定しなかったんです。だからズルズルとこんなに長くかかっちゃったんですけど(笑)。僕は美術に関してはプロですから、きちんと締め切りを設けて取り組みますが、文章、ましてや小説は全く素人という思いがありますので、「もし完成したらラッキー」ぐらいのつもりでやっていました。そして一応、ラッキーなことに終わったという。
――また小説を書きたいという思いはありますか?
今回の『げいさい』は2作目になりますが(1作目は『青春と変態』)、両方ともそこそこ成功したアーティストの手記、というスタイル、一人称で書いています。僕の中で、いわゆる小説というのは三人称で書くイメージがありますが、僕にはその形式では書けません。ただ、ストーリーを考えることは好きなので、生きてるうちにあと1作ぐらいやりたいな、と思っています。
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