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美術家として僕のキャリアなんてまだまだ大したことないのだが、それでも時々雑誌なんかからインタビューを受けることはある。そのつど、どういう経緯で美術家になったか、通りいっぺんのことは答えている。波乱万丈の面白い話も取りたててできないが、美術家というだけで世間からすれば珍しい存在なのか、そういう話にもそれなりの需要はあるようだ。
ただし本人としては、毎回悔いのような、フラストレーションのような、微妙な感覚が残る。『また言い足りなかった……うまく伝えられなかった……それも根本的なところが何一つ!』と。しかしその〈根本的なところ〉を伝えようとしたら、どれほどの言葉の量が必要になってくるのか。あるいはどのような言葉の質が必要になってくるのか……。
そんなことをあれこれ考えていて、『よし、ここは一つ、小説のようなスタイルで書いてみようじゃないか』と思い立った。〈てにをは〉も怪しい絵描き風情には無謀な試みだが、そのスタイルでないと伝えられないことがあるのだ――たぶん。