人類、総オンライン化。そこで発生した大災厄を少年たちは乗り越えられるのか? 『すべてが繋がれた世界で』藤田祥平――立ち読み
- 2020.10.20
- ためし読み
そして二〇四二年、現在。
恋に破れたいい男、綿貫鉄兵は、この春に二十一歳の誕生日を迎える。
かれは「量子コンピュータに宿る神」――リエフのもとを訪れ、自分の役職の、後任の候補者をもとめた。
綿貫のリクエストを受けたリエフは、日本国の全国民の個人情報を、ある能力値の順にリストアップした。
そのリストの最上位にあらわれたのは――山口のちいさな漁村で平目を釣っていた、なんだかとってもふつうの子に見える、十六歳の少女、荻原花奏だった。
物語は、鴨川の河川敷で昼寝をしていた綿貫が、忘れていた運命を、悟るところからはじまる……。
1
よく晴れた五月のある日、おれは、自分の余命があと一年しかないことに気づいた。
「……あっ……」と、おれは言った。
気を紛らわせるために煙草をくわえたが、火をつけるのを忘れたまま、しばらくぼうっとしていた。
……いやいや。
どう考えても、ほんとうらしくなかった。
肉体的には、まだまだ元気である。もともとそんなに深酒はしないが、飲み過ぎたって翌朝には元気に目覚めるし、煙草はうまい。
配給だって、いつも大盛りでもらう。
それが、一年って。
ご冗談を。
とはいえ、リエフからの通知は、厳然たる事実としておれの頭のなかにあった。
締め切りが迫っていることを、何度か警告されもした。
認めよう。忘れたふりをしていただけなのである。
まったく。人間の運命というやつは、なかなか思い通りには動かせない。
それが自分の運命であれば、なおさらだ。
おれたちの運命を司っているリエフも、こればっかりはどうしようもないらしい。どうにかなるなら、あいつはとっくのむかしに全人類用のワクチンを作っていただろう。
そして、ワクチンのかわりにおれのもとに届いたのは、(想像上の)薄っぺらい紙切れ一枚だった。
そこにはたしかにおれの二十一歳の誕生日の日付と、〈さっさと後任を指名しなさい〉という文意が記されていた。
なんか、こう……。
もうちょっと、奇跡とか書いといてくれねえもんかな。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。