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人類、総オンライン化。そこで発生した大災厄を少年たちは乗り越えられるのか? 『すべてが繋がれた世界で』藤田祥平――立ち読み

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

別冊文藝春秋 電子版34号(2020年11月号)

文藝春秋・編

別冊文藝春秋 電子版34号(2020年11月号)

文藝春秋・編

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「別冊文藝春秋 電子版34号」(文藝春秋 編)

 二〇二〇年代末。

 受信機と発信機をもち、自己増殖する、極小の有機機械――スマートダストが、右傾化した各国政府によって、秘密裏に散布された。

 目に見えないこの塵は、食事や呼吸から、音もなく人間の体内に癒着し、すべての脳を、強制的にオンライン化した。

 この「プロトコル敷設」が完了してから、数ヶ月後。

 人類にとって、致命的な副作用があらわれた。

 ――個人の死の恐怖が、世界に接続されたのだ。
 

 二〇三二年に勃発した第三次世界大戦は、相互確証破壊の均衡をやぶって、全面核戦争となり開戦同日中に終戦した。

 核の炎は世界の主要都市を焼き尽くし、統治機構は頭をもがれ、資本主義社会は機能不全に陥った。

 その翌年――人類が復興の道を歩みはじめた矢先。

 地球上に存在するすべてのスマートダストが突然変異し、病原体と化した。

 この病原体は、感染した二十二歳以上の人間の細胞を急激に癌化させ、死に至らしめた。

 世界中で、大人たちが倒れ、二度と目覚めなかった。

 この過酷な運命に、人類も滅び去るかと思われたころ――

 東海第二原発のメルトダウンによって、死の大地となった東日本をのがれ、西へとむかう子供たちのグループが、日本列島にあった。

 みずからを「救世軍」と名乗るかれらは、中日本の生き残りたちを吸収しつつ、京都にたどり着き、その地を拠点と定めて、さまざまな人道支援活動をはじめた。

 救世軍のメンバー、田中紀子は、より効率的な支援を行うために、旧日本国の情報インフラストラクチャと、量子コンピュータ「オフィエル」を奪取。

 彼女はこの量子コンピュータに、みずから設計開発したSAI、「リベルテ・エガリテ・フラテルニテ〔通称:リエフ〕」をインストールした。

 リエフの能力を知った救世軍リーダーの鹿糠信子は、この存在に、すべてのひとの運命を操作させることで〈幸福度の平均化〉を実現できると考えた。

 彼女はこのアイデアをもとに、「選択的共産主義」たる政治思想を設計。

 情報インフラストラクチャを通じ、西日本の旧太平洋ベルトをおもな領土とする、あたらしい日本国の建国を宣言した。

 初代首相は、鹿糠信子。

 首都は、京都と定められた。


 二〇三六年。

 もと救世軍メンバーの綿貫鉄兵は、新日本国首相、鹿糠信子に秘めたる恋をうちあけた。プロポーズは受理され、ふたりは晴れて恋仲となった。

 ここから数年間、日本国とふたりの、幸せな日々がつづく。

 しかし、公私で立場をともにするふたりは、政論と恋愛を分けることができず、しだいに繫がりを見失い、関係は破局を迎えた。

別冊文藝春秋からうまれた本

電子書籍
別冊文藝春秋 電子版34号(2020年11月号)
文藝春秋・編

発売日:2020年10月20日

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  • 『リーダーの言葉力』文藝春秋・編

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