コラム・エッセイ

ある日「幻視」した未来に震え、ぼくは書き始めた。『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』の新鋭による希望の物語

藤田 祥平

特別掲載に寄せて

ある日「幻視」した未来に震え、ぼくは書き始めた。『手を伸ばせ、そしてコマンドを入力しろ』の新鋭による希望の物語

「別冊文藝春秋 電子版34号」(文藝春秋 編)

 あれは昨年の夏のことだったと思います。実家に帰る用事があって、経路を検索しました。すると、見覚えのないルートが出てきました。地方都市のはずれを走るちいさな鉄道やバスを乗り継げば、故郷まで行けるらしいのです。

 ぼくはそのルートをたどり、聞いたこともない路線の、聞いたこともない駅で降りました。駅前の乗り場に、バスがやってきました。ぼくのほかに、乗客はいないようでした。いちばんうしろの座席に座ると、バスが動きはじめました。

 二度と来ない街かもしれないからよく見ておこうと思って、ぼくは窓から景色を眺めました。すると、なんだか、へんな気分になってきました。というのも……。

 まず、空がみょうに白かった。薄い雲が全天に、見えるかぎりどこまでもひろがって、ぼうっと輝いている。白っぽい光に照らされた家々は、なんだかどれもくたびれている。数軒に一軒は戸やガラスが割れていて、あきらかに空き家だとわかる。道路のアスファルトは割れほうだいで、でこぼこ。さびた自転車が倒れている。空き地に生えた草花にも元気がない。交通も、人の往来もまばら……。

 そして、この景色は、とつぜん、ある言葉をぼくに与えました。

「どうして世界は滅んでしまったんだろう?」

 この言葉はとつぜんあらわれて、揺るがしがたい事実になりました。それからぼくは、この疑問に答えようと、試みはじめました。ありもしない世界が滅んだ理由の、仮説と答案が胸のうちに去来するうち、ぼくは故郷の街にたどり着きました。

 そこは昔とあまり変わらない、ごくふつうの駅前です。ひとびとは元気よく、どんどん歩いていきます。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版34号(2020年11月号)文藝春秋・編

発売日:2020年10月20日


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