桜丘小学校の運動会で、毎年六年生が全員で挑む組体操「人間タワー」。しかし昨年、頂上に立つ児童が滑り落ち、中段の児童が骨折。ネットニュースでは危険性が取りざたされ、現・六年生児童や保護者から中止を求める声があがった。
この物語は、人間タワーをめぐって、様々な人物の思いが絡み合いながら展開していきます。登場する大人たちは皆、とても真面目な人たちです。いい加減な人は見当たりません。離婚したことを悔やみ続ける、シングルマザーの片桐雪子。老人ホームに暮らし、生前の妻の言葉に囚われ続ける老人・本郷伊佐夫。自身の名前にコンプレックスを抱え、伝統ある人間タワーを遂行させようと頑迷に手を尽くす、六年生の学年主任・沖田珠愛月。その意固地な沖田に違和感を抱きながらも、自分だけは良い教師であろうとする島倉優也。母校である桜丘小学校で受けた凄惨なイジメの記憶を抱え続ける会社員・髙田剛。そして、今年の運動会で「人間タワー」に挑むことを目の前に控えた、六年生の子どもたち。大人たちは「こうあらねばならない」という理想の自分像を心の中に高く掲げ、そうでない自分を許すことができないでいます。それゆえ繊細な人ほど精神的に追い詰められていく。自分で自分を縛り、時に、他人に対しても攻撃的になってしまうのです。そして子どもたちもまた、大人たちの言うことを鵜呑みにし、一つの考え方にとらわれ、人間タワーの是非をめぐって対立していきます。
しかし、「こうあらねばならない」という考えに強く囚われている大人たちや子どもたちの中にあって、まだコンクリートされていない柔軟さを持った女の子が一人だけ登場します。六年生の安田澪ちゃんです。対立する子どもたちの中、澪ちゃんはある意味で一番うまくやっているのです。うまくやっているというと語弊があるかもしれませんが、とにかく、考え続けている。「タワーに反対=自分と同類」だと安直に近寄ってきた青木くんに、「人間タワーには反対だけど、人間タワーをやらないことにも反対」だと言い放つシーンは印象的です。どちらかに決めてしまうことを答えとするのではなく、互いに納得できる方法を探ることはできないものか、と考えている。