そんなアーヤと澪ちゃんとの間に、僕は現代的なヒロインとして共通するものを感じます。「人間タワーには反対だけど、人間タワーをやらないことにも反対」だと言い放った澪ちゃん。どちらの意見も分かるけど、どちらの意見にも納得はできない。そうして澪ちゃんは、両方を立てる方法はないかと考える。しかし、間をとったバランスの良い案を考えるというのは、容易いことではありません。下手をすれば両方を敵に回す恐れがあるからです。それは、ちょっとしたズレが生じれば崩れる人間タワーと同じです。バランスの良さを考えるためには、多角的に根気強く物事を見定める必要があります。気持ちが余程強くないとできることではありません。尊敬していた珠愛月先生が見せた強引な大人のやり方に落胆しつつも、決して新しい道を考えることを止めなかった澪ちゃん。母親からの干渉を正面から受け止めるのではなく、受け流しつつうまいことやる術を見いだした澪ちゃん。彼女は、人生が二者択一ではなく、第三の道を探った先にこそ新しい可能性が生まれることを示してくれた気がしました。
アニメーション映画は、自分一人だけで作ることはできません。沢山の人の手を借りることではじめて成立します。しかし、合理的に「あなたはこれをやってください」「この範囲をお願いします」と差配すると、概ね想定の範囲の仕上がりに収まります。期待を越えるようなものが出てくることは滅多にありません。かといって、「良い作品を作りたい!」と皆が我武者羅になれば、想像もできない素晴らしいものが生まれてくるかというと、そうとも限りません。勿論、卓越した力を持つ個人に、決められた範囲を徹底的に追求してもらうことが必要な時や、皆で「負けるもんか!」と逆上するような瞬間が必要な時もあります。しかし、そのどちらでもない、僕の知らない第三のやり方があるのではないか。今は分からなくても考え続けなくちゃ、そう澪ちゃんから投げかけられているような気がします。
僕にも、小学生の頃に運動会で一所懸命に組体操に取り組んだ記憶は、おぼろげながら未だに残っています。団結という言葉が今より力を持っていた時代のことです。けれど、社会の在り方の変わった今、力を合わせるということは自分たちにとって一体どういうことなのか。僕はそれを考えずにはいられません。桜丘小学校の六年生や先生たちが考え抜いて辿り着いた今年の運動会。そのラストシーンが文句なしに心を打つのは、第三の道を考え続けて未来に希望を示した一人の女の子の美しい姿が、僕の目には、タワーの中にハッキリと見いだされるからにほかなりません。
高く聳えるのではない。けれど大きく広がる可能性を秘めた、新しい人間タワー。ぜひご自身の目で確かめていただきたいと思います。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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