阿川家に僕が出入りするようになったのは昭和四十年代の初頭からである。佐和子姫がまだ中学に入って間もない頃だったろうか。どういうわけか弘之大先生に気に入られ、書生の如く扱っていただいた。
大先生は周知の如く大変な食通であり、初めて夕食を御馳走になった時、みずから有名なドライマティニィを作って下さり、今夜は家内のライスカレーを御馳走する、家内のカレーは絶品である、と宣言されて奥様のカレーをいただいた。当時僕はカレーに凝っており、カレー評論家を自称していたので、どうだと意見を求められて
「正直な意見を云うんですか」
「勿論、正直に云いたまえ」
「松竹梅に分類するなら、竹の中、というところでしょうか」
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