上弦の月夜、猫のマスターがいる満月珈琲店では星詠みの勉強会が開かれて――
そう発言して、彼は席に着く。
彼の名前は、火星。
とても凜々しい顔立ちをしていて、髪は火のように艶やかな赤、瞳の色も同じ色だ。
「意外とマーくんも勉強熱心なんだね……」
ぽつりとつぶやいたのは、銀髪の少年・水星だ。彼は、中性的な美しい容姿をしている。美少年の誉れが高い。
「ちゃんと名前で呼んでくれないか。『マー』はお前も一緒だろう」
赤髪の青年に睨まれて、マーキュリーは、「まぁね」と笑う。
彼らのやり取りを微笑ましく見守っていた三毛猫のマスターは、ふふっと笑い、
「マーズくん、その通りです」
と、話題を戻した。
「そうです。十八世紀頃から約二百年間、この世界は『地』の時代でした」
私はさらに分からなくなって、ええと、と顔をしかめた。
「紀元後に『魚座の時代』が始まって、西暦二〇〇〇年くらいまでの約二千年間は、『魚座の時代』だったんですよね? それなのに『地』とか『風』の時代ってどういうことですか?」
質問をしながら、混乱が極まってくる。
そんな私を見て、隣では、マーキュリーがあんぐりと口を開いた。
「え、君、そこからなの? いつもしたり顔でお客様にアドバイスをしているのに?」
「私、ホロスコープのことならなんとか分かるのよ。ハウスの特徴とか、惑星のこととか。それと、なんていうかね、大いなる啓示を受け取って伝えているところもあって、言ってしまえば巫女のような……」
「勘で話してるということ?」
「勘とは違うのよ! 宇宙の意思を伝えているの」
強く返しながらも、私はばつの悪さから肩をすくめる。
マーキュリーは、はいはい、と息をつく。
相変わらず、小生意気な子だ。
すると即座にマーズが、マーキュリーをぎろりと睨んだ。
「ヴィーは感性の星なんだ。もっと尊重しろ」
はーい、とマーキュリーは気がない返事をする。
マスターが、本題に戻りますね、と懐中時計を手にした。それは普段は時計であり、時に特別なことができる。
夜空に、魚座と水瓶座の図が映し出される。
「マーズくんが言っていたように、西暦二〇〇〇年頃まで、約二千年間は、『魚座の時代』でした。そして今は『水瓶座の時代』になったわけですが、この星座の時代というのは何かと言うと、『春分点』の話なんですよ。春分点のスタートが魚座にあった。それが水瓶座に移ったんです」
「春分点……」
はあ、と私はよく分からないまま、相槌をうつ。
「季節が変わると、服装や行動が変わりますよね。それは、『生き方が変わる』と言っても良いでしょう。それと同じで時代が変われば、様々なことが変化します」
そう言って、マスターは説明を続ける。
この続きは、「別冊文藝春秋」1月号に掲載されています。
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