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上弦の月夜、猫のマスターがいる満月珈琲店では星詠みの勉強会が開かれて――

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望月 麻衣

電子版35号

出典 : #別冊文藝春秋
ジャンル : #小説

「別冊文藝春秋 電子版35号」(文藝春秋 編)

 そう発言して、彼は席に着く。

 彼の名前は、火星。

 とても凜々しい顔立ちをしていて、髪は火のように艶やかな赤、瞳の色も同じ色だ。

「意外とマーくんも勉強熱心なんだね……」

 ぽつりとつぶやいたのは、銀髪の少年・水星だ。彼は、中性的な美しい容姿をしている。美少年の誉れが高い。

「ちゃんと名前で呼んでくれないか。『マー』はお前も一緒だろう」

 赤髪の青年に睨まれて、マーキュリーは、「まぁね」と笑う。

 彼らのやり取りを微笑ましく見守っていた三毛猫のマスターは、ふふっと笑い、

「マーズくん、その通りです」

 と、話題を戻した。

「そうです。十八世紀頃から約二百年間、この世界は『地』の時代でした」

 私はさらに分からなくなって、ええと、と顔をしかめた。

「紀元後に『魚座の時代』が始まって、西暦二〇〇〇年くらいまでの約二千年間は、『魚座の時代』だったんですよね? それなのに『地』とか『風』の時代ってどういうことですか?」

 質問をしながら、混乱が極まってくる。

 そんな私を見て、隣では、マーキュリーがあんぐりと口を開いた。

「え、君、そこからなの? いつもしたり顔でお客様にアドバイスをしているのに?」

「私、ホロスコープのことならなんとか分かるのよ。ハウスの特徴とか、惑星のこととか。それと、なんていうかね、大いなる啓示を受け取って伝えているところもあって、言ってしまえば巫女のような……」

「勘で話してるということ?」

「勘とは違うのよ! 宇宙の意思を伝えているの」

 強く返しながらも、私はばつの悪さから肩をすくめる。

 マーキュリーは、はいはい、と息をつく。

 相変わらず、小生意気な子だ。

 すると即座にマーズが、マーキュリーをぎろりと睨んだ。

「ヴィーは感性の星なんだ。もっと尊重しろ」

 はーい、とマーキュリーは気がない返事をする。

 マスターが、本題に戻りますね、と懐中時計を手にした。それは普段は時計であり、時に特別なことができる。

 夜空に、魚座と水瓶座の図が映し出される。

「マーズくんが言っていたように、西暦二〇〇〇年頃まで、約二千年間は、『魚座の時代』でした。そして今は『水瓶座の時代』になったわけですが、この星座の時代というのは何かと言うと、『春分点』の話なんですよ。春分点のスタートが魚座にあった。それが水瓶座に移ったんです」

「春分点……」

 はあ、と私はよく分からないまま、相槌をうつ。

「季節が変わると、服装や行動が変わりますよね。それは、『生き方が変わる』と言っても良いでしょう。それと同じで時代が変われば、様々なことが変化します」

 そう言って、マスターは説明を続ける。


この続きは、「別冊文藝春秋」1月号に掲載されています。

別冊文藝春秋からうまれた本

別冊文藝春秋 電子版35号(2021年1月号)
文藝春秋・編

発売日:2020年12月18日

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