横顔を窺ったが、暗くてよく見えなかった。
しゃくりあげる声が聞こえた。
泣いているのだ。
「花奏。救世軍出身の人間は、みんな心がだめになっているんだよ。東でひどい目に遭ったやつらばかりだったから。おれにしてもそうなんだ。こうして信子の遺灰を撒いたのに、なんとも思わない。たぶん、彼女といっしょに、できるだけコストのかからない葬りかたを議論したことがあるからだろう。京都の死体は燃やして鴨川に流せばいいと思っていたんだ。墓だの埋葬だのって、いらない手間がかかりすぎるから。そうしなかったのは、葬儀を禁ずれば民衆の幸福度が下がるからで、おれは人類のこの性向を、いまでも軽蔑している」
「でも、死者への尊敬がないなら、どうやって生者の尊厳を保つんですか!」
「おまえの言うことは完全に正しい。正しいが、どうしようもないんだよ。核の炎に故郷の街を燃やされ、見えない疫病に人生をぼろぼろにされたおれたちには、死者への尊敬なんてものは、じつはひとかけらもないのさ。形式上は尊厳をもっているように見えても、それを感じてはいないんだ」
沈黙。
「……だったら、信子さんは、どうしてあんなに優しかったんですか」
「……優しかった?」
「信子さんは、優しかったんです。ふたりで話したときに、鉄兵をよろしくね、わたしがいなくなったあとをお願いねって、何度も言ってました」
おれは長く沈黙したあと、思いもよらなかった結論を得た。
「だから彼女は総理に推薦されたのさ」
数日後。
おれは病院の廊下でそわそわしていた。
手持ち無沙汰で、煙草を喫いに出た。
出たのはいいが、ぼーっとして、喫うのを忘れて戻ってきた。
あっ、喫うの忘れたな。えへへ、どじなんだから。と思ってまた病院の外に出た。
紙巻をくわえてポケットを探ったが、燐寸が見つからなかった。
病院の廊下にもどり、隅から隅までをよく調べた。長椅子のうしろに潜り込んだりしてまで調べた。通りがかる人みんながおれを怪しんだ。しかし、見つからなかった。
仕方ない、我慢するかとあきらめかけたところで、ポケットから燐寸箱が出現した。
おれは困惑しつつ煙草に火をつけた。
「ばか、先輩! 病院は禁煙ですよ!」
「あっ、ごめん!」
おれはあわてて指先で火をもみ消し、屋外に出て、ポケットを探った。
燐寸は消失していた。
「???????」
LoL的な煽りピンを自分に打ちながら全身を探ったが、どこにもなかった。
おれはそわそわとあたりを歩き回った。
歩き回っているうちに迷った。
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