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いま、「居眠り磐音」を振り返りて

いま、「居眠り磐音」を振り返りて

佐伯 泰英

著者特別インタビュー

出典 : #文春文庫
ジャンル : #歴史・時代小説

『探梅ノ家』(佐伯泰英)

裏の主役・田沼意次

――家基も田沼も「磐音」シリーズを突き動かす推進力になったわけですね。

 読者に「あ、この時代の話か」と感じてもらえるような史実を探した結果、幸運にも巡り合えたんですね。これはそれほど有名人でなくてもよくて、当時の最新医学の知識を持ったオランダ商館の医師が江戸にやって来て長崎屋に泊まっているなら、病気になった江戸の人を診察するかもしれない、そう思うとわくわくします。磐音を仲介役にすれば、多少の障害は越えられる。物語が進んでいくんです。著者にとっても、彼は格好の便利屋さんなわけです(笑)。

――まさに敵役の田沼意次に輝きがあるから、磐音が引き立つのですね。

 最初は改革の志に燃えた、善き人だったんだ。やがて権力を握り、金銭欲が出てくると、やっぱり人間は弱いですよね。そんなにお金を手にしてどうするのと思うけれど、田沼も大名になって変わってしまったんでしょう。実際には良い政治もしていることを理解しつつ、悪い役を引き受けてもらいました(笑)。時代劇は、見るからに悪い顔の人がいると物語が締まりますから。

――田沼との対決はまだまだ先のことですが、〈決定版〉は二年余にわたる長期プロジェクトです。

 はい、健康維持が第一と、規則正しい生活と一日一万歩の運動を欠かさず行っております。

――毎日一万歩ですか?

 私は午前四時には起きます。まず二時間、仕事。小説の一節の半分ほどは書きます。一時中断、愛犬みかんと散歩して、歩数計は三千六百歩。帰宅したら風呂に入って三十分体操して、七時半に朝食。八時半には再びパソコンの前に座り、昼までに一節書き上げる。二年前から一日二食にしているので、昼は食べません。ゲラの校正などもしますが、合間に自宅二階のベランダ、通称“佐伯ジム”でドスンドスンと足踏みをして歩数を稼ぎます。

 午後三時半、週に二、三回の鍼灸に行って、そのままみかんと夕方の散歩兼ドライブ。みかんも私もドライブが気分転換になります。五時前に帰宅、ここまででだいたい一万歩ですね。風呂に入りますが、早くビールが飲みたいのですぐに出ます(笑)。瓶ビール一本と、ワイングラス二杯か日本酒七酌。新聞を読んだりしていると午後八時頃になって、寝室へ。娘が買ってくる、北欧かイギリスのミステリーの翻訳や、内田百閒の日記を引っ張り出して小一時間ほど読んでから寝ます。

 それと、東京へ仕事に出掛けたついでに、二カ月に一度、北里大学の漢方鍼灸治療センターで診察を受け、漢方を処方してもらいます。病を患っての病院通いにあらず。体調を維持するために必要な病院通いなので、気楽です。このとおり体調維持は抜かりなくやっております!

――安心しました(笑)。最後に、読者のみなさんへメッセージを。

 時代小説第一作から二十年間、二百六十冊を超える物語を書いてきました。最初に飛び込んだ映画の業界は、組織の歯車になることができず、ついで現代小説は書けども書けども売れず、いよいよ進退窮まり、決死の覚悟で書いた時代小説でなんとか生き延びた。ただただ、何か残せるはずだ、と見通しもなく自分の経験と努力に賭けて書き続けてきた。縁というか、宿命を感じます。自分の年齢を考えると、これほど長いシリーズに手を入れる機会は二度とないかもしれません。読者のみなさまも、まずはお元気で(笑)、このチャレンジにお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

文春文庫
探梅ノ家
居眠り磐音(十二)決定版
佐伯泰英

定価:803円(税込)発売日:2019年08月06日

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