- 2021.01.04
- 書評
【『監禁面接』文庫化】残虐描写はないのにルメートルらしさ全開! 人生どんづまり男の、一発逆転再就職サスペンス
文:編集部
『監禁面接』(ピエール・ルメートル)
ジャンル :
#小説
,#エンタメ・ミステリ
本書はフランスの作家ピエール・ルメートルの長編サスペンスCadres noirs(Calmann-Lévy, 2010)の全訳です。『死のドレスを花婿に』に続く二作目のノンシリーズ長編にあたります。原題は「黒い管理職」「ブラック・エグゼクティヴ」といったような意味合いを持ちます。
これまで、残虐な犯罪や残酷な運命をめぐるトリッキーなサイコ・サスペンス/警察小説を書いてきたルメートルですが、本書には残忍な殺人も常軌を逸した犯罪者も登場しません。主人公は失業四年目のアラン、五十七歳。かつては企業の人事部長として采配を振るいながらもリストラされてしまい、年齢がネックとなってか、再就職活動もはかばかしく進まない。人生のどんづまりに直面する彼が一発逆転の大勝負をかけるというのが物語の骨子となります。
そう説明すると「中年サラリーマン哀歌」みたいな話に見えるかもしれませんが、そうではありません。日本に暮らすわたしたちにも容易に共感できる市井の人物を主人公にしつつも、ルメートルは彼を、とんでもない状況に放り込んでしまうからです。このあたりの呼吸は、奇妙な不幸に見舞われつづける女性の物語としてはじまる『死のドレスを花婿に』に通じるもので、これまでの作品でみせてきたトリッキーなアイデア、読者を騙す叙述のつなわたり、ドンデン返しとトリックを小説世界になじませる残酷な世界観といったルメートルらしさは、本書にも100%、息づいています。
さて懸命の再就職活動をつづけているアランは、ある日、傲岸なアルバイト先の上司と諍いを起こし、とうとう最後の収入源すら失ってしまいます。そこに舞い込んでくるのが、エントリーしていた大企業の人事副部長職の候補に残ったという朗報です。残るは最終試験のみ。そこで競争相手の上を行くことができれば再就職が果たせる。蓄えは底を突きはじめており、いまも彼に愛情を注ぐ妻の不安を取り除くこともできる。しかし、この採用試験を取り仕切る人材派遣会社が告げた最終試験の内容は、あまりにも異様なものでした――
就職先企業の重役会議を襲撃せよ。
この企業は近く大きなプロジェクトを控えており、その責任者を選ぶために重役たちのストレス耐性などを査定したいのだという。それと同時に人事副部長候補の力量も見きわめることができる。アランほか候補者たちはテロリストを演じる役者たちとともに重役室を急襲、アランらの指揮によって重役たちに尋問を行なうという段取り。重役たちを監禁する部屋には隠しカメラが仕掛けられており、それで一部始終を査定するというのでした。
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