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【『監禁面接』文庫化】残虐描写はないのにルメートルらしさ全開! 人生どんづまり男の、一発逆転再就職サスペンス

【『監禁面接』文庫化】残虐描写はないのにルメートルらしさ全開! 人生どんづまり男の、一発逆転再就職サスペンス

文:編集部

『監禁面接』(ピエール・ルメートル)


ジャンル : #小説 ,#エンタメ・ミステリ

『監禁面接』(ピエール・ルメートル)

 いくらなんでも道徳的に問題があるだろう、とアランは思うものの、現状のままでは困窮するのは目に見えており、こんな理想的な職を得るチャンスは二度と訪れないと、この試験に臨むことを決意。やるからには絶対に採用を勝ち取るべく、事前準備にとりかかります。

 社名の伏せられた「国際的大企業」とはどこなのか。その企業が近々にとりかかるプロジェクトとは何か。襲撃によってテストされる重役たちは誰で、どんな人物で、どんな背景を持っているのか。なけなしの資金を投じ、ありとあらゆる手を尽くしてアランは調査を進め、とうとう重役室襲撃の日が訪れるのですが……

 ご紹介できるのはここまで。ここから先でちょっとしたギア・チェンジが起こり、物語のゲーム性がぐんと高まる、ということくらいは言ってもいいでしょう。襲撃試験を真ん中において、「そのまえ」「そのとき」「そのあと」の三部で物語を構成し、その切り替えごとにドラスティックな局面の変化を演出してみせる手際は、『悲しみのイレーヌ』『その女アレックス』『死のドレスを花婿に』でも見せたルメートル一流のあざやかさです。果たして勝つのはアランの意地か、企業の冷酷な論理か――?

 ミステリーやサスペンスで作中人物を駆りたて、読者を物語にひきつけるのは、「犯罪被害の恐怖」です。それはつまるところ「生命や心身を傷つけられることへの恐怖」を意味します。失業や就職の困難は、「社会的生命の抹殺」や「自己の尊厳の否定」につながるものですから、ミステリーやサスペンスの題材になりえます。そして、一見するとゲーム的な構図とブラックな諧謔が前面に立つ本書ですが、これまでのルメートル作品が「残虐な犯罪による被害」を通じて描いてきた運命の残酷を、「社会の残酷による犠牲」を通じて描いている点で、ルメートルらしさに変わりはないのです。

 なお本書は、ルメートルが五十六歳になったとき、自分の父親が五十六歳だったとき失業していたことを思い出したことから着想されたのだという。ル・パリジャン紙(二〇一〇年二月五日)のインタビューでルメートルは、そんな境遇に苦しむ人たちの「鬱憤を、自分なりの方法で晴らしたかったんです。つまり“書く”ことで」と語っている。

 

 日本では『その女アレックス』が本屋大賞翻訳小説部門や「このミステリーがすごい!」などのミステリーランキングで軒並み1位に選ばれ、ベストセラーになったことで知名度を増したピエール・ルメートル、その声価は欧米でも高まりつつあります。

文春文庫
監禁面接
ピエール・ルメートル 橘明美

定価:968円(税込)発売日:2021年01月04日

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