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「心」があるから、人を好きになる。現代人を癒す、ほっこり小説

「心」があるから、人を好きになる。現代人を癒す、ほっこり小説

文:青木 千恵 (フリーライター、書評家)

『廃墟ラブ 閉店屋五郎2』(原 宏一)

出典 : #文庫解説
ジャンル : #小説

『廃墟ラブ 閉店屋五郎2』(原 宏一)

 不朽の恋愛ドラマ、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』のロミオが、体重百二十キロの巨体で楽天イーグルスのキャップをかぶっていたら。まあ、時代も国も違うからあり得ないが、過去から現在に至るまで、恋愛ドラマの主人公は痩身の美男美女が定番だ。いまでは「バブル」と呼ばれている一九八〇年代後半~九〇年代初めの好景気の時代には、会社員とOL(美男美女)がスキー場で恋に落ちる映画が大ヒットした。バブルが弾けたものの、景気はほどなく回復すると思われていた九〇年代後半には、出版社のベテラン社員と人妻(美男美女)が恋に落ちる小説がヒットし、「不倫ブーム」と言われた。

 それから二十年。景気はなかなか回復せず、バブル崩壊以降の歳月は「失われた三十年」と形容されている。有名人の「不倫」が報道されるや「最低だ!」と大炎上しているのを目にすると、二十年ほど前の「不倫ブーム」はなんだったのかと隔世の感がある。

 さて、なぜ「恋愛」から切り出したかというと、『廃墟ラブ』と題した本書には、ラブというかなんというか、「恋愛」、「ボーイ・ミーツ・ガール」の要素があるからだ。「閉店屋五郎」シリーズの第2巻にあたる本書には、「バリケード本店」、表題作、「スリーチートデイズ」の3話が収められている。

 主人公の五郎は、埼玉県にある元々は農産物倉庫だった六百坪の敷地を店舗兼自宅にし、中古屋を営む男である。商売を始めたとき、閉店を決めた店からごっそり中古品を買い取る方が効率がいいと気づき、閉店時の買い取り撤去に注力するうちに「閉店屋五郎」と呼ばれるようになった。

 第1話「バリケード本店」は、いまや関東一円に十三店舗を展開し、急成長中の食品スーパー『ミノヤ』の“旧本店・閉店建て替え計画”に伴い、閉店仕事を得意とする五郎が指名されて、『ミノヤ』発祥の地、神奈川県平塚市に向かう場面で始まる。初仕事を首尾よくこなせば、大口のお得意様になるかもしれない。張り切って到着すると、ミノヤ旧本店は予想外にさびれた木造店舗だった。『鮮魚の蓑屋』と塗装の剥げ落ちた看板を掲げる旧本店に入ろうとすると、中年の男が立てこもっていて「とっとと帰れ!」と追い返されてしまう。不審に思った五郎は、娘の小百合とともに事情を探ることになる。

廃墟ラブ
閉店屋五郎2
原宏一

定価:本体740円+税発売日:2021年01月04日

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