全国のミステリーファンのみなさま、こんにちは! 出会いと別れの季節、3月の新刊情報をお知らせします。点数は少ないですが、文春らしい力作が揃ったのではないでしょうか。
「文春ミステリーチャンネル」は、文藝春秋が刊行している新刊書籍・雑誌の中から「ミステリー(推理小説)」に特化した情報を発信するものです。どうか読み逃しがありませんように、チェックリストとして活用してください!
【単行本】
□スティーヴン・キング『アウトサイダー』上下(白石朗訳)
□服藤恵三『警視庁科学捜査官』
強烈な単行本2作がほぼ同時に書店に並びました。まずは巨匠キングの最新邦訳『アウトサイダー』。平和な田舎町で起こった残忍な少年殺害事件が物語の焦点となります。発見された証拠が指し示す犯人は地元の高校教師。しかし周囲の彼に対する信頼は厚く、しかも事件当日、彼は遠く離れた町にいて鉄壁のアリバイが存在したのです。不可解な事件には恐ろしい「真相」が隠れていたことが徐々に見えてきて……。20年来のキング担当者が「前半は読んでいて胸と胃が痛くなった」と告白する容赦ない展開。初期のホラーエンタメ路線に回帰して、帝王キングがフルスピードで突進する快作です。
次の『警視庁科学捜査官』はノンフィクションですが、先月ご紹介した真山仁『ロッキード』と同じく、そんじょそこらのミステリーより圧倒的に面白い、警察小説ファンなら徹夜必至の大傑作。地下鉄サリン事件、和歌山カレー事件、ルーシー・ブラックマン事件……いずれも有名な事件ばかりですが、これらの捜査の背後に、1人の科学分析のプロが存在したことはほとんど知られていません。著者の服藤恵三氏は日本最初の「科学捜査官」。地下鉄に撒かれた謎の毒物をいち早く「サリン」と同定し、和歌山カレー事件では県警科捜研の「青酸化合物の混入」との鑑定に被害者の症状から異を唱え、意外な場所を捜索することによって大量のヒ素を発見します。鑑定や分析のエピソードが面白いのはもちろんですが、当初、科捜研の研究員として奉職した著者が、やがて捜査官に転じ、管理職として捜査畑を歩んでいくプロセスも圧巻の読み応え。現場経験のない著者への刑事たちの反発、十全に力を発揮できない人事、処遇のつらさなどは、読んでいるこちらの胃液が逆流しそうになるほど緊張感に満ちています。ふだんノンフィクションを読まない人にも強烈におすすめしたい1冊!
【文春文庫】
□堂場瞬一『骨を追え ラストライン4』
□神永学『ガラスの城壁』
□榎田ユウリ『この春、とうに死んでるあなたを探して』
□ジェフリー・ディーヴァー『オクトーバー・リスト』(土屋晃訳)
堂場瞬一さん『骨を追え』は、おなじみ「ラストライン」シリーズの最新作。行く先々で必ず事件を引き寄せるベテラン刑事・岩倉は、赴任したばかりの立川中央署でもさっそく白骨遺体に出くわします。おそるべき記憶力の持ち主でもある岩倉は、10年前、遺体発見現場近くで女子高生の失踪事件が起きていたことを思い出すのですが、当時の容疑者は現在、癌に冒されて余命いくばくもない状態なのでした。10年前の事件をどう調べなおすか――。堂場さんの作家デビュー20周年を記念し、講談社文庫の「警視庁犯罪被害者支援課」シリーズとコラボした本書。支援課の村野が岩倉刑事とともに事件の真相に迫る趣向も楽しく、シリーズ既刊を未読の方でも問題なく物語世界へと入っていけます。警察小説好きの方は絶対に要チェック!
「心霊探偵八雲」シリーズが大人気の神永学さん。ついに文春文庫に登場です。父親がネット犯罪に関与した容疑で逮捕されてしまった中学2年の悠馬は、転校生の暁斗と協力して事件を調べ始めるのですが、行く先々に謎の男たちが現れて……。本書で初めて「思春期の頃の自分をモデルに書いてみようと思った」という神永さん。『ガラスの城壁』という題名は、主人公のみならず、いまの若者たちが置かれた閉塞状況を示唆していると読むこともできるでしょう。一気読みの青春ミステリーです。
いっぽう『この春、とうに死んでるあなたを探して』は、ロスジェネ世代、中年にさしかかった矢口が、妻と別れ、仕事に疲れ、中学時代を過ごした町に戻ってくるところから幕を開けます。元同級生の小日向と再会し、コンビを組んで恩師の死の謎に挑むという、いわば、大人の青春ミステリー。気の置けない会話の中にそこはかとなく漂う喪失感、絶望感が読む者の心を捉えて離しません。文庫化にあわせて書き下ろされた短編「この春、思いもよらぬ事態のなかで僕らは」は、新型コロナ禍のもとでの矢口たちの暮らしを描いて、強い印象を残します。
ページを開くと突然「第36章」が現れる仰天の書、それが『オクトーバー・リスト』。誤植でも乱丁でもありません。本書は36章から始まり1章で終わる、「逆順」で書かれたミステリーなのです。冒頭、娘を誘拐されたガブリエラが誘拐犯に脅迫され、銃を向けられるところで章が変わりますが、「その先」は描かれない。ページをめくるとどんどん時間が遡り、章は若くなるばかり。そんなことができるのか? という問いには、どんでん返しの帝王ディーヴァーならできる! (ディーヴァーにしかできない!)と答えるほかありません(真相は第2章と第1章で明かされます)。どうか書店で実際に手にとって、超絶技巧の出来栄えを確かめてみてください!
以上6作、駆け足でご紹介してきました。
ミステリーは私たちの大切な友人です。本欄では、毎月、ミステリーの「いま」を感じられる新刊を紹介していきます!
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キング初のミステリ三部作の正体?
2021.02.17書評 -
堂場瞬一作家デビュー20周年記念 3大警察シリーズコラボ開催中!
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意外な方向からサプライズがやってくる。これこそミステリの醍醐味だ。
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この春、心揺さぶる大人の青春小説
2021.03.15コラム・エッセイ -
犯罪エンタメの帝王、会心の一作! ~ジェフリー・ディーヴァー、再入門~
2021.03.16書評 -
【新刊案内】文春ミステリーチャンネル(2021年1月&2月合併号)
2021.02.26文春ミステリーチャンネル
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。