全国のミステリーファンのみなさま、こんにちは! 年末年始にかけて、2020年の傑作ミステリーをふりかえる編集者座談会【国内編】【海外編】をお届けしたため、しばしミステリーチャンネルをお休みしておりました。あらためて、2021年1月~2月の新作情報を一挙、ご案内します。年あけ早々、傑作、力作がずらりと揃いました!
「文春ミステリーチャンネル」は、文藝春秋が刊行している新刊書籍・雑誌の中から「ミステリー(推理小説)」に特化した情報を発信するものです。どうか読み逃しがありませんように、チェックリストとして活用してください!
【単行本】
1月
□真山仁『ロッキード』
2月
□呉勝浩『おれたちの歌をうたえ』
□ハンナ・ティンティ『父を撃った12の銃弾』
□佐々木譲『帝国の弔砲』
のっけからノンフィクション作品を紹介しますが、そんじょそこらのミステリーよりもはるかに面白い“謎解き”が詰まった超ド級の大著が真山仁『ロッキード』です。元総理が逮捕されるという歴史的大疑獄だったにもかかわらず、ロッキード事件を審理した元最高裁判事は「フワフワと現れて、フワフワと消え去った事件でした」と、40余年の時をへて重い口を開きます。事件の記録を再検証し、当時を知るほとんどすべての関係者を取材していく真山さんの眼前に、しだいしだいに浮かび上がってくる事件の真相とは? 現金の運搬ルートを実際に車で辿りなおすことで判明した驚愕の事実、多くの逮捕者を出した全日空元首脳の初証言など、ページをめくるたび新たな視界が広がってゆく緊張感はこたえられません。いったん読み始めたら最後、夜を徹すること必至の傑作です。
スケールの大きさと衝撃度で『ロッキード』にまったく負けていないのが、呉勝浩『おれたちの歌をうたえ』でしょう。東京でデリヘルの運転手をしている元刑事のもとに、ある日、幼馴染の死を伝える電話がかかってきます。「巷に雨がふるやうに/わが山に雪がふる/幼子は埋もれ、音楽家は去った/狩人と、踊るオオカミの子どもたち/真実でつながれた双頭の巨人」――友が遺した謎めいた5行の詩。元刑事はそれが自分たち昔の仲間に対する亡友の伝言だと気づきます。いっぽう訃報をもたらした若者は、謎の文句が隠し財産のヒントを暗示すると考え、二人は詩の秘密を解きあかすため行動を共にすることに。昭和51年、平成11年、そして令和――3つの時代と青春群像を活写する大長編の最後には、涙なくして読めない真相が待ち受けています。
続いて翻訳ミステリーをご紹介しましょう。2020年を代表する傑作『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)に感動した方に全力でおすすめするのがハンナ・ティンティ『父を撃った12の銃弾』。アメリカ最大のミステリー賞・エドガー賞の最終候補となった傑作です。身体にたくさんの弾傷を持つ父とともに、亡母の故郷に住むことになった12歳の少女ルー。いじめや恋愛を経て成長してゆく彼女の物語と、父の弾傷にまつわる断章が交互に描かれていきます。みずみずしい青春小説と緊迫のサスペンスを両立させた本書は、全米の各紙誌を絶賛で埋めつくしました。美しく壮大な自然描写も忘れがたく、無駄な場面が1つもない伏線回収もエレガント。「どんな小説が好みなのかを問わず、心に響くものが必ずある」というニューズウィーク評がすべてを言い表しています。編集担当者も「絶対の自信作」と断言する渾身の書。
佐々木譲さんの新刊『帝国の弔砲』は、著者が得意とする歴史冒険小説。しかも、「日露戦争でロシアが勝利する」という歴史の「if」に挑んだ「改変歴史SF」でもあるのですから、必読というほかありません。主人公は1800年代後半にロシアで生まれた日系移民2世の少年。彼は日露戦争後、勝利したロシア帝国軍に徴兵され、世界大戦に臨み、秘密作戦で重要な役割を担います。日本からロシアに渡った開拓農民の苦労、従軍の辛酸など、圧巻の描写の数々に、私たちは途中で頁を閉じることができないでしょう。やがて訪れる「革命」、そして日系ロシア人青年の運命は――。「終末」の雰囲気に包まれ、暗く、先の見えない物語世界の先には、近未来の日本の姿が投影されているような気がしてなりません。
【文春文庫】
1月
□濱嘉之『紅旗の陰謀』
□近藤史恵『インフルエンス』
□ピエール・ルメートル『監禁面接』(橘明美訳)
2月
□中山七里『静おばあちゃんと要介護探偵』
□スティーヴン・キング『任務の終わり』上下(白石朗訳)
□みうらじゅん編『清張地獄八景』
国家を危機から守る公安マンの活躍を描く、おなじみ「警視庁公安部・片野坂彰」シリーズ。最新作『紅旗の陰謀』は、タイトルも示唆するように中国政府による“ある企み”を描き出していきます。発端は、最近ニュースでよく見る「家畜泥棒」。新型コロナウイルスが猛威をふるう中、茨城県で牛泥棒のベトナム人が斬殺されるところから物語の幕が開きます。牛泥棒と超大国の陰謀とがどのように繋がるのか? 注目の文庫書き下ろし作です。
WOWOWの連続ドラマがまもなく放送予定の『インフルエンス』は、80年代半ば、大阪郊外に建ち並ぶニュータウン団地で出会った3人の女性たちによるサスペンスミステリー。中学2年の冬、団地内でおきたある事件をきっかけに、3人の関係は一変します。大人になった彼女たちがふたたび出会う時、浮かび上がってくる衝撃の真実とは? 校内暴力、苛烈ないじめなど、80年代の学校生活を描く作者の筆は緊張感に満ちています。自らの少女時代をふりかえる内澤旬子さんの巻末解説も必読!
『その女アレックス』の鬼才ルメートルが放つ徹夜必至、一気読み保証の「再就職」サスペンスが『監禁面接』です。失業4年目、57歳の主人公は、年齢がネックとなり再就職の機会を逸し続け、倉庫のバイトで糊口をしのいでいます。そんな彼についに一流企業の最終試験の案内が! ところが、その試験の内容たるや異様を極めるものでした。「就職先企業の重役会議を襲撃し、重役たちを監禁、尋問せよ」――ルメートル作品ゆえ、怒濤のどんでん返しが待ち受けることは予想の範囲内かもしれません。しかし、本書のどんでん返しは人智を超越した“ありえなさ”である、とだけ、ここでは申し上げておくことにします。
日本における「どんでん返しの帝王」といえば中山七里さんにとどめをさします。昨年、デビュー10周年、12か月連続単行本刊行をなしとげたばかりの中山さんは、2021年もノンストップ! 元高裁判事の高遠寺静と、中部経済界の大立て者にして下半身不随の暴走機関車・香月玄太郎の老老コンビが難事件を解決する『静おばあちゃんと要介護探偵』が文庫化されました。80歳と70歳というミステリー史上最高齢コンビ探偵の活躍ぶりを堪能できる、今後の日本社会を占うような連作集です。続編となる単行本『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』も好評発売中!
頭部に負った外傷で昏睡状態となって眠る殺人鬼――。〈恐怖の帝王〉がミステリーに挑んだ3部作の完結編に当たる『任務の終わり』で、キングはついにホラーの封印を解きます。町で起こる奇怪な連続自殺を追う退職刑事がたどりついた殺人鬼の秘密とは? 眼に見えぬ脅威が一挙に牙をむく後半はまさに圧巻! 殺人鬼と死闘を繰りひろげる主人公、また主人公をサポートする生きづらさを抱えた女性ホリーの活躍も心を打つ徹夜本です。
『点と線』『砂の器』『ゼロの焦点』――ミステリーファンなら誰もが「松本清張ならこれ」と思う偏愛作品を持っているのではないでしょうか。日本最強の清張フリークとして有名なみうらじゅんさんが、自らの考察原稿を中心に、インタビュー、対談、貴重な証言など、選りすぐりの清張記事を集めに集めた決定版が『清張地獄八景』です。ありとあらゆる面白ネタが詰まっているので、入門書としてはもちろんのこと、マニアックなウンチクの種本にもうってつけ。清張ファンなら「持っておかねばならない」1冊といえるでしょう。
以上10作、駆け足でご紹介してきました。
ミステリーは私たちの大切な友人です。本欄では、毎月、ミステリーの「いま」を感じられる新刊をどんどん紹介していきます!
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ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/12/17~2024/12/24 賞品 『リーダーの言葉力』文藝春秋・編 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。