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16世紀、「世界史」はいかにしてはじまったのか

16世紀、「世界史」はいかにしてはじまったのか

玉木 俊明

『16世紀「世界史」のはじまり』(玉木 俊明)

出典 : #文春新書
ジャンル : #ノンフィクション

『16世紀「世界史」のはじまり』(玉木 俊明)

 第三の科学革命とは、コペルニクスやケプラー、ガリレイ、ニュートンらによって新しい天文学上・物理学上の発見がなされ、科学研究の方法論に大きな変革がもたらされたことをいう。それにより、ヨーロッパ人の世界観は大きく変わることになった。実験と観察にもとづく科学的思考が、ヨーロッパ人の意識に深く根づくことになっていったからである。この科学革命が本格的に展開するのは17世紀以降だが、その萌芽は16世紀に起きていた。ヨーロッパ文化の輸出者としてもっとも重要であったイエズス会が、初期の科学革命の成果を中国に輸出するようになった。

 科学革命は、軍事革命に寄与しただけではなく、ヨーロッパの科学技術を世界に輸出することにつながっていく。16世紀のヨーロッパはまだ貧しい地域であったが、世界を変革するだけの能力を有していたのである。

英雄の時代

 16世紀前半とは、まだ中世の残滓が強く見られた時代である。それに対し、16世紀後半は、近代化がはじまった時代といえる。16世紀は前半と後半でこのように時代相が大きく分かれる。したがって本書の構成は、16世紀前半と後半に二分される。それによって「中世」とはなんだったのか、新たに生まれつつある「近代」とはなにかを明らかにしていきたい。

 それは、ヨーロッパ史の文脈から見るなら、複数の地域や民族にまたがる帝国体制から主権国家体制による中央集権化への転換を意味する(もちろん帝国体制自体はその後も存続するが)。

 最近の西洋史研究では、近世の国家は、多様な要素を含み込んだ「複合国家」であったという主張がなされることが多い。しかし、いくつかの民族を抱えている国家は、現在も多数存在する。本書で主張したい重要なことは、近代国家というものの根幹をなすのは、徴税システムだということである。近代には、中央政府が税金をかけられる範囲こそが国境となっていった。税金を払う(取られる)メンバーが「国民」であり、そのような国家が近世のヨーロッパで誕生し、それが近代的な主権国家の根幹をなすのである。それは全世界におよぶ現象であった。

 さらに16世紀は、英雄の時代でもある。大きな変革期には、大きなマンパワーをもつ人たちが必要である。そのような人々の強烈なパワーこそ、時代を変革するエネルギーの源泉になった。混沌とした世界で、神聖ローマ帝国のカール5世、そのライバルだったオスマン帝国のスレイマン1世をはじめ、スペインのフェリペ2世、イギリスにはエリザベス1世、ロシアにはイヴァン雷帝、ムガル帝国のアクバル大帝、そして日本の織田信長、豊臣秀吉と豪華な顔ぶれが並ぶのは偶然ではない。時代の変化が巨大な個性を必要としたのである。


(「序章 「世界史」はいかにしてはじまったのか」より)

16世紀「世界史」のはじまり
玉木俊明

定価:968円(税込)発売日:2021年04月20日

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