長い夜も、いつかは明ける。アフターコロナに向けて、われわれはどう備え、何をすべきなのだろうか。多くのビジネスパーソンにとっての関心事であろう。
コロナ禍においてはマスクがニューノーマルとなり、人が集まることや旅行、出張といった移動が制限された。会議や学校の授業もオンライン中心に切り替わり、日本社会が一変したかのような印象を受けた。
だが、コロナ禍がもたらしたこうした「変化」を詳細に見て行くと、多くは「コロナ前」からの課題であったことに気付く。コロナ禍が日本社会を変えたというより、積年の課題を可視化したというのが実情だったのだ。
夜が明けきらない今、われわれがまずすべきは、「コロナ前」に立ち返って日本が抱えていた課題を思い起こすことだ。そしてそれがコロナ禍でどう浮き彫りにされたのかを知ることである。
さまざまな課題が山積する中で、日本社会を根底から揺るがす最大の懸念事項といえば、少子高齢化とそれに伴う人口減少だ。「コロナ前」にあって多くの企業は、国内マーケットの縮小や人材不足に悩んでいた。少子高齢化や人口減少は社会の勢いを削ぎ、企業や組織の低迷の根源的要因になっていた。
これに対して、コロナ禍が可視化したものといえば、まさに数十年後の日本の姿であった。コロナ不況で多くの業種で需要が大きく減ったが、それは人口が激減した後の国内マーケットを想起させた。われわれはコロナ禍というタイムマシーンに乗って「日本の近未来」を垣間見たのである。
だが、それは同時にアフターコロナへの道筋を示していた。感染収束後のV字回復を目指す企業は多いが、一時的に成功したとしても、やがては縮小せざるを得ないという厳しい現実をわれわれに知らしめていたのである。ならば無理にV字回復を図ることはない。むしろ、人口減少に備えた新たなビジネスモデルに転換することである。
私は、『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』(講談社現代新書)において「戦略的に縮む」ことの必要性を説いた。もし「戦略的に縮む」ことなく、これまで通りの拡大路線を取り続けたならば、日本の産業は総じて敗北を喫すると考えたからだ。それは日本が貧しくなることを意味する。
残念ながら、人口が減って行く今後の日本は、すべての産業分野で勝つことはできない。2040年代初頭まで高齢者は増え続け、勤労世代は激減していく。世界に秀でる産業分野に絞り込み、そこに資源も人材も集中投入し特化していくしかないのである。
こうすることで付加価値を高めながら、並行してデジタル改革をもって生産力を向上させることである。もはや売上高を競う時代は終わった。アフターコロナは1人当たりの利益高をアップさせることが生き残りの策となる。こうした企業を増やすことで、国内マーケットの縮小をカバーし、人口が減るほどには日本経済を縮ませないようにするのだ。
「戦略的に縮む」には、需要が縮小してしまっている今こそチャンスである。ライバル社が伸びているときに縮むのは大変だ。むしろ、縮んでしまっている現状から人口減少後の“適正規模”まで回復させていくほうが、労力は遥かに小さくて済む。
『未来の年表』で「戦略的に縮む」という考え方を提唱して以来、多くの方から賛同の声を頂いた。同時に、講演先で経営者の皆さんなどから「具体的にどう取り組めばよいのですか」といった実践についての質問を頂戴することも多くなった。
そこで本書は、これにお答えすべく先行的に取り組む企業の事例をふんだんに紹介することにした。そのほうが、私が考える「戦略的に縮む」についてのイメージをご理解頂きやすいと考えたからである。
「戦略的に縮む」には、いくつかの手法がある。例えば、時代の要請に応え終えた部門は畳んだり、売却したりすることで組織をスリム化することだ。あるいは、得意分野を伸ばすために他社と連携したり、企業買収したりして時間短縮を図ることである。本書はこうした手法をすでに実行している企業を取り上げ、その戦略性を解き明かしていく。
実は、コロナ禍において「戦略的に縮む」ための動きは強まってきている。需要の減少という非常事態に背中を押されるように、大企業を中心として組織のスリム化や不採算部門の売却の動きが本格化したのである。こうした最新の動きも極力取り上げていく。
一方、「戦略的に縮む」となれば、働き方や人生設計にも変化が及ぶ。そこで個々のビジネスパーソンに降りかかる問題について、40代~60代を年齢ごとに区分してそれぞれについて「戦略的に縮む」ためにすべきことを整理した。なるべく身近な例を取り上げることで、分かりやすく説明したつもりだ。アフターコロナを勝ち抜く手がかりである。
本書は、ビジネスシーンにおける「戦略的に縮む」ための総合指南書の役割を果たそうと考える。本書を読んで下さる皆様がアフターコロナにおいて成功を収めるヒントとなり、きっかけとなることを願ってやまない。
(「まえがき」より)
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