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円城塔、怪獣を語る 『ゴジラS.P<シンギュラポイント>』をめぐって

円城塔、怪獣を語る 『ゴジラS.P<シンギュラポイント>』をめぐって

聞き手:佐々木 敦

文學界10月号

出典 : #文學界
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

「文學界 10月号」(文藝春秋 編)

■怪獣と文学

 ――ゴジラをはじめとする怪獣映画の歴史と文学の関係を振り返ると、武田泰淳が一九五九年に「「ゴジラ」の来る夜」というかなりエキセントリックな短篇を発表しています。また、中村真一郎、福永武彦、堀田善衛の三人は、六一年に公開された『モスラ』の原作となる『発光妖精とモスラ』を共同で執筆しました。こういった過去を踏まえて、何か思うところはありましたか。

 円城 ゴジラ映画の物語を駆動してきた〈原子力〉のことは考えざるを得ませんでした。『シン・ゴジラ』(二〇一六年)もそうでしたが、ゴジラは原爆の話であり、原発の話でもある。第一作の原作を書いた作家の香山滋は明確に原水爆に対する恐怖を描こうとしました。それは、ある程度、成功したのですが、失敗もした。香山滋が映画館に大ヒットした『ゴジラ』を見に行くと、観客がゴジラが出現する場面で恐怖するのではなく、笑っていた、と。

『モスラ』も水爆実験場のインファント島を棲息地にするなど、原子力のモチーフは維持されています。

 でも、今では文学でもそうですが、何らかの大きなテーマを担い、象徴するようなキャラクターを登場させて、物語を作っていくのは、よっぽど狙わないと難しくなっています。だから、『ゴジラS.P』では、原子力を意識的に避けました。ゴジラを倒すためにすごい力を発揮するのも、原子力ではなく、第一作でゴジラを倒したオキシジェン・デストロイヤー(O・D)と頭文字を揃えたオーソゴナル・ダイアゴナライザーという謎の物質にしました。

『ゴジラS.P』に登場するゴジラ ©2020 TOHO CO., LTD.

 怪獣を何らかの大きなテーマの象徴にするのは難しいので、ディテールを積み重ね、埋めていくことによって、テーマは発見されるはずだ、という方向に振りました。僕の小説もわりとそうなんです。断片的なものを積み重ねていって、象徴やメタファーは好きに汲み取ってくださいという作品が多い。

 ――ファンブックのインタビューで、「『シン・ゴジラ』との大きな違いは、政治が関わっていない点でしょうか」と語られていますが、今のお話につながっているのでしょうか? 現代はわかりやすいアクチュアルなテーマを設定しにくいし、そもそもそれを設定することが有効なのかという疑問も浮かぶことと思います。

 円城 政治的な要素に関しては、僕も含めてスタッフに詳しい人がいなかったのが大きいですね。それとそのような要素を入れても、『シン・ゴジラ』を超えようがない。

『シン・ゴジラ』を見ると、政治的な要素を入れるとすると、政府側のキャラクターをけっこうな数、作らなければならないことがわかります。でも、予算などの制約から作れるキャラクターの数は決まっていて、政府側のキャラクターを増やす余地はありませんでした。そこで、申し訳程度にチラホラとやるのであれば、千葉の南房総の方で、旧態依然としたまま昭和の頃からなにも変わっていない謎の施設を中心にする方がリアルではないかということになりました。

 ――なるほど。『ゴジラS.P』には、非常に複雑かつものすごく多種多様な要素が入っていますが、この物語を作っていく過程で、絶えず立ち戻るような、あるいは、すべてがそこから始まっているという〈出発点〉はあったのでしょうか?

 円城 主人公として二十代の男女がいて、その人たちがゴジラを倒す。そのためにはAIとロボットぐらいは必要になるだろう。二人の男女が協力して、ゴジラを倒すのだけれども、片方は世界を回っていて、片方は地元に残り続ける。二人が連絡を取り合っているうちに、倒す方法が見つかる……。という枠組みから出発しました。

 SF設定を作る上では、「シンギュラポイント」は、かなり最初から入れました。でも、それは、物語から要請された設定で、お話に合わせて作られた謎科学というかんじですね。ゴジラをはじめ謎の怪獣が次々出現するので、それらがどんな物質で出来ていて、なぜ出てくるのかを説明したり、過去に戻ったりしなければならないので、かなり早い段階から、何でも詰め込める箱として「特異点=シンギュラポイント」を置かなければならないだろうとなりました。その上で今回は色々頑張らず、シンプルにオーソゴナル・ダイアゴナライザーでゴジラを倒して終わりにするところに落ち着きました。

■小説とシナリオは全然違う

 ――円城さんは二〇一四年にテレビ放映されたSFアニメ『スペース☆ダンディ』の脚本も二話、担当されていますが、『ゴジラS.P』では全十三話すべてを書かれた。書いていくなかで小説とシナリオの共通点あるいは相違点について気づかれることはありましたか。

 円城 全然違いますね。頭の使っている場所からして違う。

 僕はもともと小説書きである以前にものを書くことに対する興味があります。何かを「書く」とは何ぞや、というような。ですから、色々なジャンルのものを書けるのは、「ああ、こういうふうに書くんだ」と体感できて純粋に楽しい。シナリオを書くことにも慣れてきたと言えば慣れてきたのですが、小説とは作り方が相当に違うんだなとも思います。『スペース☆ダンディ』と『ゴジラS.P』も全然違いました。


(8月2日、Zoom にて収録)


 

この続きは、「文學界」10月号に全文掲載されています。

文學界2021年10月号

文藝春秋

2021年9月7日 発売

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