播磨国の法師陰陽師の兄弟の物語
SFを中心に、多ジャンルにわたる小説を数多く送り出してきた上田早夕里さんの最新作は、『播磨国妖綺譚』。室町時代の播磨国(現在の兵庫県南部)に暮らす、薬師の兄・律秀と、僧の弟・呂秀の兄弟がさまざまな物の怪と対峙する姿を描く、新たな陰陽師ものの誕生だ。
物語は永享十一年(一四三九年)から始まる。呂秀も修行した燈泉寺の井戸に奇妙な噂がたつ。井戸を覗いて水面に自分の顔が映ったならば無病息災、何も映らなければ覗いた本人が三年以内に死ぬ――なんとも物騒な噂を確かめに、兄と共に寺を訪れると、水面に映った異形の鬼に出会う。鬼は、かつて蘆屋道満に仕えた式神で、三百年以上も新たな主を求めていたという――。
「兵庫県に住む人間として、平安時代の陰陽師・蘆屋道満が加古川に住んでいたことは知っていましたが、あらためて調べてみると、自分にとって馴染み深い土地にも、彼の子孫や一派が活躍していた場所がたくさんあるとわかりました。室町時代は、都の陰陽寮の権力構造が確立され、陰陽師が最も活躍した時代だそうです。そこで地方にも目を向ければ、道満の血をひく播磨の陰陽師の話も書けるなと考えました」
兄弟は、庶民を相手に病を診て、薬を方じ、祈祷によって物の怪や禍を退ける「法師陰陽師」である。京の都の陰陽寮に勤める陰陽師とは違い、まじない師に近い存在だ。実際に物の怪が見えているのは呂秀のみで、律秀は物の怪の存在すら信じていない。
「蘆屋家の子孫の中に、実際に兄弟で薬師だった方々がいました。そこで、物の怪は見えないが理詰めで対処する兄と、法師陰陽師としては才能がなさそうだけれど物の怪が見える弟、という二人を組み合わせたら面白くなるだろうと考えました」
道満の式神に新たな名前を与え、主となった呂秀は、その力を使い、兄とともに人々の悩みをすくっていく。
「播磨の法師陰陽師の来歴に関しては、専門家の方が詳しく調べた史料がそろっており、有名な伝説も残っています。しかし、庶民との具体的なやり取りについては空白状態で、そこは歴史の隙間なのでフィクションとして描きやすい。室町時代は商業が発展して、庶民が力を持ち始め、現在に通じる社会構造ができあがった時代です。庶民の暮らしや文化が面白いのです。室町時代というと、政変や戦乱が注目されがちですが、そこから少しずらした視線で、地方の陰陽師と庶民の暮らしを見ると新しい発見がある。地方ならではの気候や自然など、地元に住む人間の強みを生かして書くことができました」
うえださゆり 兵庫県出身。二〇〇三年『火星ダーク・バラード』で第四回小松左京賞を受賞し、デビュー。一一年『華竜の宮』で第三二回日本SF大賞を受賞。著書多数。
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