- 2018.09.11
- 書評
圧倒的な森の気配と、八重の花のように開花し続ける物語
文:池澤春菜 (声優・エッセイスト)
『薫香のカナピウム』(上田早夕里 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
子供の頃、夏休みをいつも南の島で過ごしていました。ミクロネシアのポンペイ島(わたしがいた時は、まだポナペ、という名前でしたが)。
朝、無人島に送って貰って、好きなだけ遊んで、海の塩と汗でしょっぱいおにぎりと、何故かポンペイ島で定番のきゅうりのキューちゃんを囓り、ハンモックで昼寝し、夕方また舟にお迎えに来て貰って帰る。浜辺中のなまこを集めて、なまこ文字を書く。シュノーケルで静かに浮かんでいると、わたしを流木と間違えた小さなお魚がお腹の影に集まってきます。沖でゆうゆうと動く、何か大きな生き物の影。浜辺で腐っていくウミガメのとんでもない腐臭。
上田さんの描く、海の物語を読む度に、わたしの脳裏には、あの海が見えていました。
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