本でつながる高校生のあたたかな絆
中江有里さんの最新作、『万葉と沙羅』は幼馴染の少年少女が、人生の岐路に迷いながらも成長していく姿を描く青春小説だ。
「本でつながる高校生の物語を書きませんか、と編集者の方からご提案いただいたことから始まりました。わたしにとってはほとんど初めての青春小説だったので、書けるか不安でしたが、わたし自身が卒業した通信制の高校や大学のことをいつか小説に書きたいと思っていたので、よい機会でした」
単位制の通信制高校に通う少女・沙羅は、幼い頃に隣同士で育ち、仲良く遊んだ少年・万葉と学校で再会する。しかし、当初、万葉は沙羅を無視するかのような態度を取り、たびたび声を掛けても、本を読み続ける。「本以外の好きなことないの?」と尋ねても無反応な万葉にたまりかね、その場を去ろうとした沙羅に、万葉は、「本なんか、読まなくていい」との言葉を返す。帰宅後、彼が母を亡くしていたことを知った沙羅が、万葉のもとを訪れると、その実家は、古書店となっていた。
「子供の時は、行ける範囲がすごく狭いですよね。その中で、自分が自分でいられる、安心、安全な場所としてあるのが、図書館や本屋だと思うんです。本を読むことで自分の居場所ができる。古書店はその象徴的な場所です」
万葉と沙羅を温かく見守るのは、古書店主である万葉の叔父の正己だ。万葉をアルバイトとして雇い、ときに重要なアドバイスをくれる。
「叔父さんはわたしの同世代ということもあって、主人公たちを見守る存在として書いているうちに存在感が増していきました」
ふたりは、それぞれの日々を過ごしながら互いの道を模索する。やがて万葉は通信制の大学へ進学し、沙羅にも新たな友人ができる。
「ふたりはお互いを好きで、尊敬していますが、そういう関係は恋愛じゃなくても成立しますよね。同じタイミングで同じ本を読んだ経験でつながれる関係はとても大切です。高校生くらいだと特に、誰かを好きにならなくちゃという焦りがあるかもしれませんが、『恋しなくても大丈夫』というメッセージも込めたかったんです」
本書には中江さん自身が好きで影響を受けた新美南吉『ごん狐』や伊藤計劃『ハーモニー』、福永武彦『草の花』などの実在の名作も多数登場する。
「書きながら、どうしてこの本を自分が好きなのか彼らと一緒に考え、どう読んだかが、自分の宝物になっていると気づきました。本は自分のルーツになるものでもあり、その出会いは一期一会で、ほんとうに大切ですね」
なかえゆり 一九七三年大阪府生まれ。法政大学卒。八九年芸能界デビュー。二〇〇二年「納豆ウドン」で「NHK大阪ラジオドラマ脚本懸賞」最高賞を受賞し、脚本家デビュー。