- 2020.05.19
- 書評
主人公の成長物語を読みながら、自分の中の子どもの部分が何度も疼く。
文:中江 有里 (女優・作家)
『車夫2 幸せのかっぱ』(いとう みく)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
浅草を訪ねると、よく見かける人力車。
一度乗ってみたいと思いつつ、一人で乗る勇気はなく、誘う人も思い浮かばず、乗っている人たちを眺めるだけだった。でも本書を読んでいると、俄然人力車に乗っている気分になってくる。
勝手な想像だが、人力車は乗馬に近いような気がする。馬は人が操るが、人力車は引き手である車夫が操る。
ちなみに馬の場合は心通じ合わない乗り手の言いなりにはならない。
人力車=俥は馬のような生き物ではないが、やっぱり操る側の腕(この場合は脚)がものを言うのだろう。乗客が快適に移動できるように、振動は最小限に、疾走感は失わないよう車夫は気を配りながら浅草を駆け巡る。
主人公の車夫・吉瀬走は、家庭が崩壊したことから高校を中退し、車夫として就職した。彼を誘った陸上部OBの前平も車夫。
勤め先の「力車屋」には前平のほかに山上、羽柴(ヒデさん)という車夫がいる。親方で車夫でもある神谷力、女将の琳子は個性豊かな「力車屋」のまとめ役というところ。
両親が出奔して、学費を払えず高校を辞め、行き場を失った走は力車屋の社員寮「日暮荘」に住まうことになる。この辺りの事情は前作「車夫」に詳しいが、本書から読み始めても全く問題ない。
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