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『陰陽雑譚』――近ごろ妖かしの多きところ

『陰陽雑譚』――近ごろ妖かしの多きところ


ジャンル : #ノンフィクション

『陰陽師』の短編、全七十四編で、もっとも不思議の事が起きている場所はどこか、調べてみました。

 まず、同率五位は、三回で比徽山と羅城門。

 比叡山は、『瀧夜叉姫』などで活躍する浄蔵ゆかりの地。平安京からは、陰陽道で鬼が来るとされる鬼門(丑寅=北東)の方角にあたり、鬼門を封じるために延暦寺がこの場所に造られたとも言われています。

 羅城門は、記念すべき第一話「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」などに登場します。羅城門は、いわば京都の内と外を分ける「玄関」ですが、当時は、夜になると誰も近付かず、今昔物話によれば、門の中に死体を置いていく者も多かったとか。

 渡辺綱の鬼退治や、芥川龍之介の「羅生門」など、古来さまざまな物語が注まれた舞台でもあります。

 四位は、四回で鴨川。「門」や「辻」とならんで妖かしが出るとされるのが「川」と「橋」。「橋」と『陰陽師』と言えば晴明が式神を置いたという一条戻り橋が有名で、『陰陽師』ではほかにも橋には逸話がたくさんあります。

 三位は、五回で束三条殿。『陰陽師』では、しばしば藤原兼家の邸宅として登楊します。「露と答ヘて」で、博雅が思いを寄せる兼家の娘・超子(とおこ)姫は、ここでのちの三条天皇を生んでいます。兼家と晴明の関係性がうかがわれる結果と言えます。

 二位は、六回の安倍晴明屋敷。順当な結果となりました。晴明の屋敷は延暦寺と同じように、御所の鬼門にあえて設置したとしいう逸話があり、不思議が多いのもこれまた自然の理なのかもしれません。

 そして一位は……内裏の七回です。朱雀門、応天門などが位置する大内裏も含めると十回に。

 内裏は、紫辰殿、清涼殿、後宮の七殿五舎などで構成され、その広さは約六万平方メートルと、東京ドーム約一.三個分でした。

 内裏にまつわる安倍哨明のエピソードで、もっとも有名な話が、蘆屋道満との「射覆(せきふう)」、袋の中身当て対決でしょう。『陰陽師』では、「晴明、道満と覆物の中身を占うこと」に描かれています。

 現在、内裏の付近は住宅街となり、当時の面影はありませんが、京都へ行かれた院は、往時をしのんで、歩いてみるのはいかがでしょうか。


文春ムック『陰陽師』のすべて (2012/10/30発売)より

文春文庫
『陰陽師』のすべて
夢枕獏

定価:792円(税込)発売日:2016年06月10日

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